研究課題/領域番号 |
26289324
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 直嗣 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (40380711)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 推進・エンジン / プラズマ / ホールスラスタ / 放電振動 / トムソン散乱 |
研究実績の概要 |
電気推進の一つであるホールスラスタは、人工衛星の小型化および高機能化を強力に推進するため、NASAの小惑星捕獲計画のメインエンジン候補に挙げられるなど、各国で競って研究開発が進められている。ホールスラスタの克服すべき課題として、放電振動が挙げられる。そこで、本研究では、振動の抑制から振動との協調へと発想の転換を行い、本放電振動を許容しつつも制御可能な電源を開発し、放電振動の制御を目指した。 ホールスラスタの放電振動と協調可能な電源を開発するために、どのような波形のときに、ホールスラスタがどのように振舞い、推力が変化するのかを調査した。様々な波形を出力するために精密電力増幅器を用いて、複合波形の放電電圧を印加して推力を測定したが、推力は変化せず10 mNであり、波形にあまり依存しなかった。 これと並行して、協調可能な電源の改良において、回路モデルの妥当性の検証やホールスラスタの性能への影響の物理的な背景を解明するために、ホールスラスタのイオンの生成・加速領域のプラズマ状態を計測するための、レーザートムソン散乱計測システムの改良を行った。現状では、ホールスラスタのイオン生成/加速領域の薄いプラズマを計るためにはSN比が不十分であったためである。現状として、計測における最大のノイズは乱反射された光である。そこで、乱反射された光が入らないように光学系を改良するとともに、計測の時間分解能を向上させた。その結果として、ノイズ成分は1/100と大幅に減少し、その結果として、1×10^16 m^-3と低密度のプラズマも計測できるシステムに改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
協調可能な電源の改良において、肝となるプラズマ計測のためには、レーザートムソン散乱計測システムの改善が必要不可欠であったが、これに関して、ノイズが1/100になり、結果として目標の1×10^17 m^-3の10倍と、当初の目論見以上の感度を得ることが可能となった。まだ振動と同期させるにはいたっていないので、プラズマ密度計測に基づく物理の解明という点においては、少し遅れているが、これは新しいレーザーの納品が遅くなったためである。しかしながら、着実に成果が出ており、同期するためのシステムはすでに構築済みである。 一方、様々な波形を試して、マクロな視点からホールスラスタの振舞いを観察し、これによってあまり影響が出ないことが明らかになったことは協調電源を改良する上で重要な成果を得ることができた。 このように、当初の計画以上にトムソン散乱計測システムの改良に成功しており、またマクロ的な視点でのホールスラスタの振舞いに関する知見が得られたため、おおむね順調に進展していると判断した
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今後の研究の推進方策 |
インテリジェンス電源開発で得られた知見をもとに、その場学習で得られたデータをモデル化し、このモデルを適応制御に組み込ませた、自己学習型の協調電源を開発する。ニューラルネットワークだけではなく、遺伝アルゴリズムや、古典的なPID制御など様々な制御手法を模索しながら進めて行く。この開発において、ホールスラスタの作動条件に合わせた頻繁な制御が必要となり、かつ放電振動の周波数(数十kHz)の10倍以上での制御が要求されるため、高速のデジタルシグナルプロセッサ(DSP)を信号処理に用いたデジタル制御を採用する。このデジタル自己学習型協調電源と様々な種類のホールスラスタのかみ合わせ試験を行い、本電源の優位性を示す。さらに、これまで長寿命(4万時間以上と予測)ではあるが、振動が大きく使えなかった作動条件でも本電源により作動できることを示し,ホールスラスタの長寿命化を一気に推し進める。
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