研究課題/領域番号 |
26289338
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
勝田 順一 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (20161078)
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研究分担者 |
森山 雅雄 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (00240911)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 疲労亀裂 / 亀裂伝播 / 結晶組織 / 屈曲伝播 / 遅延伝播 |
研究実績の概要 |
鋼構造物に高張力鋼を適用すると,設計応力を高く設定することができるために板厚を薄くして重量を軽減することが可能である。しかし,一般に軟鋼に比べて高張力鋼は伸び性能が低く,高い降伏応力のために切欠き感受性が高いまま維持される。これらのことが,疲労強度や疲労亀裂伝播特性の低下を招いている可能性がある。また,高強度鋼の疲労強度について,現在,疲労特性が十分に把握されているとは言えず,高強度鋼の使用範囲が広がりつつある中,従来とは異なる方法で高強度鋼の疲労亀裂伝播特性の向上を検討することを本研究では目的としている。 本年度は,撮影機器を最新のハイスピードマイクロスコープに更新することにより,撮影速度を高速化した上で,PIV法による分析精度の向上を図るために,高解像度の画像の撮影を目的とした。また,動画による画像処理法として採用しているPIV処理においては,亀裂先端周辺の画像を処理して亀裂周辺の変位の変化をベクトル表示するところまでの処理が可能であったが,本年度の研究では,刻々の変形量を求めるのではなく,それぞれの注目点の載荷過程全ての変形を積算し,弾性変形量を除去して引張り塑性領域を算出すること,除荷過程全ての変形を積算し,弾性変形量を除去して圧縮塑性領域を算出することを目指し,所定の目標を達成した。 結晶組織の3次元形状については,従来の方法により,疲労亀裂伝播試験が終了した試験片における結晶組織の3次元形状と疲労亀裂の3次元形状を取得し,疲労亀裂が折れ曲がる状況と結晶組織の関係を明らかにした。 以上のように,疲労亀裂伝播試験における動画撮影システム改善を行うと共に,疲労亀裂の進展に結晶組織が及ぼす影響を明らかにした。なお,本年度に使用した鋼材は,市販の高張力鋼と保有する既存の鋼材を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,高解像度の動き解析マイクロスコープを導入し,撮影時に生じるいくつかの不具合を改良することによって,従来よりも鮮明で高解像度である伝播中の疲労亀裂先端と結晶組織の動画を撮影することができた。また,現有のひずみゲージによる疲労亀裂先端の塑性域計測結果と同速度で,高解像度の動画を撮影することが可能となったことにより,両者を比較してその同等性を確認することができた。 さらに,この動画をPIV法により画像処理をすることによって,疲労亀裂先端の刻々の変形挙動を算出し,載荷側,除荷側の変形をそれぞれ積算することで,疲労亀裂先端に生じる繰返し引張り塑性領域,及び繰返し圧縮塑性領域を算出し,疲労亀裂と結晶組織の画像に重ね合わせて表示することができた。このことにより,疲労亀裂の屈曲と結晶組織の関係を調査することが可能となった。 今年度実施した疲労亀裂伝播試験は,市販の鋼材,及び現有の同じ化学成分で結晶粒の大きさを変えた鋼材について実施した。 しかし,すべての撮影動画で上記の処理が可能となったわけではなく,鋼材の種類やある疲労亀裂の長さの動画によっては,疲労亀裂の進展方向と塑性域の形状が一致しないものもあった。今後は,これらの問題点の解消と,個々の結晶組織と疲労亀裂伝播方向の関係を明らかにするために動画の撮影倍率を上げて撮影する必要があり,このことによって生じる問題点を解決する予定である。 このことによって,本研究課題である疲労亀裂伝播寿命を向上させるための鋼材を製造購入して,本システムを適用しながら,合目的の鋼材に対して,その効果を確認する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,疲労亀裂伝播寿命を向上させるための結晶組織を改良した鋼材を製造購入し,疲労亀裂伝播試験を行って,伝播中の疲労亀裂伝播の動画を撮影する。さらに,取得した画像を処理することにより,疲労亀裂の屈曲伝播の状況と画像処理で得られた疲労亀裂先端の塑性領域の形状の比較,考察を行い,疲労亀裂伝播の遅延に及ぼす要因や影響度について調査する。 なお,本研究目的である780MPa級以上の高張力鋼を対象とした疲労亀裂伝播性能向上という目的に対して,現在までの研究で得られた研究成果である硬質結晶組織が適切に配置された鋼材,及び繰返し塑性変形能があまり低下しない鋼材を製造する場合,780MPa級以上の高強度を確保できない可能性もある。この状況が生じた場合には,高強度という条件を若干緩和して試験用の鋼材を製造購入することとする。 また,疲労亀裂伝播試験中の疲労亀裂先端の動画撮影においては,結晶組織と疲労亀裂先端の関係を明らかにするためには,現在の高解像度を確保したまま撮影倍率を上げる必要があると考えている。このことによって,極わずかな試験片の面外方向の揺れがピントのずれにつながる可能性があり,さらに,伝播する疲労亀裂先端を常に視野の中央に捕らえておくことが困難になる場合も想定される。このような問題は,PIV法による画像処理の段階で分析結果に大きな影響を及ぼすことが推察される。このような問題点も今後の研究において解決する予定である。 加えて,本研究の初期計画にも記したように,伝播する疲労亀裂の3次元形状,及び結晶組織の3次元形状や3次元配置が疲労亀裂の伝播に及ぼす影響についても調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新動き解析マイクロスコープ本体用のカメラ・レンズ購入を計画していたが,カメラのカラー化は断念し,レンズは現有のものと同性能であったため購入を控え,現有のレンズを流用して実験を実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
この費用は,研究目的に合致した鋼材を製造購入する費用に適用するものとし,初期計画に予定していた鋼材購入費と合わせて,研究目的に合致した鋼材を購入する予定である。また,新モデルで研究目的に合致した単焦点のレンズが発売された場合には,その時点で購入を検討する。
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