研究課題/領域番号 |
26289339
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
有馬 正和 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70264801)
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研究分担者 |
石井 和男 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 教授 (10291527)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海中探査・機器 / 自律型海中ロボット / 海洋環境モニタリング / 海洋生態系 / 海中音響観測システム / 自律型ソーラー洋上ビークル |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は,約千機の自律型水中グライダーが非同期的なコミュニケーションを図りながら観測海域の相互補間を行うことによって長期間・広範囲に亘る3次元多点同時観測を可能とする「グライダー型群知能海中ロボットシステム」を構築し,全地球規模での海洋環境生態系のモニタリングを実現することである。本研究では,主翼独立制御型水中グライダーSOARERとソーラー水中グライダーTonai60を用いて,「群知能海中ロボットシステム」の実現に向けた制御アルゴリズムの確立と具体的な運用手法の検討を行う。 2年目は,複数機の水中グライダーの運用を援助するための自律型ソーラー洋上ビークルの設計・製作と試験航行を行った。遠隔操縦モードと自律型航行モードでの運用が可能で,現在,自律制御の改良を進めているところである。また,広範囲における長期間の運用を実現するために,自然エネルギーを最大限活用する推進方式として,海洋における密度躍層を形成する密度差を利用した密度差エンジンの水中グライダーを考案,検討して予備実験を試みた。さらに,複数機の水中グライダーの運用事例を想定して,海中音響観測システム(GPSと3軸デジタルコンパスを内蔵した4ch海中音響観測システム4ch-UPAMSと2ch海中音響観測システム2ch-UPAMS)を組み合わせて,和歌山県・太地町の森浦湾内の生け簀(8月;マダライルカ)および東京都・小笠原諸島海域(9月;マッコウクジラ)で,鯨類の海中での行動を推定し生態を明らかにするための実験を行った。その結果,海中での3次元的な運動を推定することが可能であることを明らかにするとともに,船舶のスクリューなどの雑音を軽減する手法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時の研究計画では,以下の項目を行うことになっていた。 (1) マルチエージェントモデルの構築〔制御アルゴリズムの構築と検証〕:本研究では,将来的には約千機もの自律型水中グライダーで構成される群知能海中ロボットシステムの運用を目指していることから,非同期的なコミュニケーション手段として「黒板モデル」の実現を目指す。 (2) グライダー型群知能海中ロボットの構築〔ハードウェアの整備〕:主翼独立制御型水中グライダーSOARER とソーラー水中グライダーTonai60 に搭載されている制御用ハードウェアは異なるため,自律協調制御のためのハードウェアの整備が不可欠である。また,今回新しく導入するSSBL位置検出装置を用いた海中ロボットの位置の同定および制御機構へのフィードバックについて検討を始める。当初は,母船または水槽の曳航台車での運用から始め,自律型洋上ステーションへの装備を検討する。 この計画に対して,2年目は,複数機の水中グライダーを組み合わせて「群知能海中ロボットシステム」を実現するために,自律型ソーラー洋上ビークルを設計・製作して,平水中での航行試験を繰り返している。この機体では,水中グライダーと同様に無線LANによる遠隔操縦を行うこともでき,複数機の水中グライダーの運用をより具体的にシミュレーションすることが可能となった。また,最大潜航深度1,500mのSSBL位置検出装置を導入したことによって,主翼独立制御型水中グライダーSOARERの位置や挙動,潜航性能を正しく推定,理解することができるようになり,今後の潜航試験に大いに役立てられるようになった。 以上より,当初の計画に対してほぼ順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り,最終年度は複数機の非同期制御による協調動作の実現を目指して,自律制御での潜航を試みたいと考えている。九州大学・応用力学研究所での水槽実験を経て,実海域試験を実施する。本研究計画では,鹿児島湾での実海域試験を予定しているが,機会があれば,実用化段階でのニーズが高い東北沖などの北太平洋でも実施したいと考えている。また,実海域試験で2機の自律型水中グライダーから得られた海洋環境や海中音響観測のデータに時空間的な補間を行って,4次元データを適切に可視化するためのソフトウェアの開発も目指したい。そして,本研究課題の成果を総括するとともに,実用化に向けた量産型の群知能海中ロボットの基本計画を纏めて本研究課題の目的を達成する。 無線LANによる制御系の確認およびパラメータの修正などのため,予め九州大学応用力学研究所の深海機器力学実験水槽において水槽試験を実施する。共同利用研究のため,試験期間は制約されるが,概ね9月~10月頃を予定している。実海域試験は,鹿児島大学水産学部の附属練習船「南星丸」の協力を得て,12月頃に比較的静穏な鹿児島湾の湾奥部での実施を計画する。また,機体の正確な位置情報を得るためのGPS,SSBL装置および表示用ソフトウェアなどを活用して,グライディング性能を把握するとともに,自律協調制御の実現に向けたアルゴリズムの確立を目指す。実海域試験は天候に左右されることが多いので,できるだけ数多くの機会を得られるよう準備を進め,平成28年度の実海域試験を計画したいと考えている。実海域試験で得られた結果を受けて,マルチエージェントモデルおよびハードウェアの改良を行うことになる。当初は,テザーケーブルを付けた状態での実験を行うが,制御系の信頼性が確認できた段階でテザーケーブルを外して,自律潜航を試みたいと考えている。
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