研究課題/領域番号 |
26289347
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 忠徳 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90303685)
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研究分担者 |
笠谷 貴史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, その他部局等, 研究員 (90373456)
市原 寛 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 講師 (90553074)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地球工学 / 海底電磁気学 / 電気伝導度構造 / 沈み込み帯 / アレイ観測 |
研究実績の概要 |
1) 時系列解析ソフトの試作 前年度までに独立成分分析(ICA)の有用性が明らかとなっているため、本年度は実際に海底で取得された電場データに対してICAを適用し、ノイズと信号の分離を実施した。その結果、ノイズ除去後の信号は生データよりも分散が小さく、これまでよりも精度よく電場信号の検出ができたと結論付けられる。すなわちICAを用いることで、より精度よい電磁場データ解析が可能となったと言える。 2) 地下構造解析ソフトの試作 本研究では海底地形や海岸線などの複雑な立体的形状をモデル化するために、MPS(Moving Particle Semi-implicit)法に基づく、3次元電磁場伝搬のフォワード解析方法を開発した。一方、3次元逆解析ソフトに関しては、仮想波動領域法における3次元比抵抗構造のインバージョンコードの開発に成功した。仮想波動領域法とは、拡散場である低周波数帯の電磁場を、数学的処理に基づき波動場へと変換する技術であり、近年提案されたものである。これをインバージョンコードに適用した結果、従来よりも高速に逆解析を行うことができた。現在はテストデータを用いた試験段階であるため、実データを用いた解析が次の課題である。 3)小型海底電磁気観測装置の試作 前年度までに従来よりも価格が安く、小型の海底電磁気観測装置(OBEM)の試作を実施した。試作後のOBEMおよび従来型のOBEMに関して、千葉県房総半島沖の海底(水深1000m~2000m)への設置・回収作業を実施した。房総半島沖合のプレート境界断層にはスロースリップ域が以前から認められている。OBEMはH27年7月に調査船「新青丸」を用いて海底に設置された。海底観測はH28年3月まで継続され、海底観測装置はすべて回収された(練習船「深江丸」調査航海)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時系列解析ソフトの試作については、ICAを実データに適用した結果から鑑みて、ノイズを非常に効果的に除去できていることが確認できた。ここでは2015年に海洋研究開発機構により取得された、曳航式自然電位探査時の電場データに対して、ICAを適用した。本観測では、並行する4つの受信ダイポールにより電場観測がなされているため、これら4chに共通し、かつ振幅が概ね同じ電場成分が海底からの自然電位信号であると見なすことができ、それ以外の成分はノイズであると考えられる。海底電場データに対してICAを適用した所、ノイズと思われる成分の抽出に成功、このノイズの要因が海水の化学成分の微弱な変化に起因していることを示した。この結果はこれまでに報告はなく、海底電磁場観測における新たな知見であるといえる。 地下構造解析ソフトの試作については、3次元構造に対するフォワード・インバージョンコードの双方の試作に成功しており、研究計画通りに進んでいる。ただし実用面ではまだハードルがいくつか残っており、計算精度や安定性の改善、3次元インバージョンのさらなる高速化などが課題である。小型海底電磁気観測装置に関しては、実海域における電磁場データ取得を実施できており、当初目標を達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
時系列解析ソフトに関しては、複数サイトにおいて取得される電磁場データを処理し、マグネトテルリク(MT)法における見掛比抵抗や位相などを算出するソフトの完成を目指す。これまでにICAがノイズ抽出・除去に効果的であることが確認されたため、これを軸として実効的なソフト完成を目指す。またICA部分のみの外部公開など、ソフトウェアの段階的な公開を進める。地下構造解析ソフトについては、MPS法に基づくフォワードコードの完成および外部公開を実施する予定である。本フォワードコードの数値計算精度を確認したところ、従来の差分法に基づく計算結果と遜色ない精度であることが確認できているが、地下に複雑な不均質構造を与えた場合、計算が安定しないケースがあることも確認された。これはMPS法で用いる影響半径の取り方や、影響半径内でのベクトルの平均化処理が、電磁場伝搬問題の場合に最適化されていないためと考えられ、MPS法の諸パラメータの最適化が課題である。また逆解析ソフトについては、実データを用いた試験的な地下構造解析を進める。海底電磁気観測装置に関しては、試作が終了しており、実データの取得にも成功した。これらを用いて、房総半島沖スロースリップ域周辺の地殻比抵抗構造の構築を実施する。 またあわせて、これまでに日本列島各地で取得・公表された地殻比抵抗構造と、日本列島全域をカバーする3次元地震波速度構造(P波、S波、Vp/Vs)を比較して、統計学的手法を用いつつ、日本列島広域3次元構造モデルの構築を目指す。さらに、これまでに日本列島周辺において取得された電磁場観測の基礎的情報の一部について、データベース化を進め、これを外部公開する。
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