研究課題/領域番号 |
26289365
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
堀 史説 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20275291)
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研究分担者 |
寺澤 倫孝 兵庫県立大学, 付置研究所, 研究員 (20197792)
井上 博之 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40203252)
岩瀬 彰宏 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60343919)
宮本 修治 兵庫県立大学, 付置研究所, 教授 (90135757)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 陽電子ビーム / 対生成 / 水素 / 格子欠陥 / 腐食 / 脆性 |
研究実績の概要 |
本研究は、金属中の水素脆化や腐食などに寄与する水素原子と格子欠陥との関連性について評価するために、従来不可能であった材料深部の欠陥状態を非破壊にて評価するために新しい陽電子ビーム装置を開発するとともに、実際の金属合金に対し水素チャージや照射などの方法により導入した格子欠陥と水素の基礎的な相関から脆性の機構の基礎研究を行うことを目的としている。初年度の研究では、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所の放射光施設であるニュースバル内のビームラインBL-01において、レーザーコンプトンγ線を生成しこれを鉛のターゲットを使って陽電子の対生成を行い、磁場によって分離した陽電子を試料まで導くラインの作製にあたった。大気中では磁場分離による測定用試料へ陽電子を入射し、配置した試料の種類などによって異なる陽電子消滅のスペクトルを観測することに成功した。測定例として、純鉄の金属疲労前後の厚さ2mmの板材を測定し、疲労による欠陥の導入の有無を検出できた。またアモルファス合金を結晶化させた場合の密度変化に対応する変化も検出できた。さらに真空でのビームラインを設計、配置したが想像以上にバックグラウンドのノイズが多く試料中での陽電子消滅を分離解析ができていない。これに関しては、再度ビームラインの設計計算により改良を検討しSN比の向上を検討中である。一方、材料中の欠陥と水素に関する実験としては、特に格子欠陥と水素の相互作用が着目されているB2構造のFe-Al合金をアーク溶解にて作製し、0.1mm厚の薄い板状試料に京都大学原子炉実験所にて電子線照射を行い導入された欠陥の同定を行った。これと同様の試料で高速陽電子測定のためのバルク材として厚さ1mm以上の板材を切り出し加工するなど行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では、(1)放射光施設で生成した高速陽電子の磁場分離と試料への導入のための装置の構築、(2)陽電子消滅測定系の構築、(3)水素注入、腐食等の測定用試料の作製が初年度の主な予定である。これに対し、(1)については装置は設計もほぼ終わり作製した装置の一部(磁場分離から試料までの導入部)で試料の測定が可能になり、実際に大気中では測定にも成功した。しかし、真空中ではチャンバとの干渉が一部生じたためノイズが発生したため、現在改良検討中である。(2)はこれによって、実際に陽電子消滅ドップラー広がり測定を実施できるよう構築済みである。(3)については、対象試料として金属疲労についてはこれまでに作製していた純鉄の疲労試験試料を流用した実測定を実施した。また新たに水素と格子欠陥との相互作用の強さに着目してFe-Al合金を作製し欠陥導入として電子線照射まで行い、水素チャージ用の条件出しの実験は遂行中である。以上のように、計画に対してはおおよそ8割程度以上は達成しているが、実験の実施により新たにわかった点もいくつかあるため、それらを次年度以降に解決しながら進めて行くことで、現時点では次年度以降の計画についてもほぼ予定通り遂行可能である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、基本的には計画に予定通りの内容で実施していく。特に陽電子ビームの調整とパラメータとして複数のエネルギーでの測定についての検討、また測定については、前年度までに作製した試料のRI陽電子での測定とビームでの測定を随時実施して行く。また試料については、作製と照射および水素チャージも継続して進めて行く。具体的には、理論的には陽電子のエネルギーは入射するレーザーの波長を変更することで複数のエネルギーを得られるため、深さを特定できる様に種類の異なる1mm程度の板材試料を準備しており、これを積層順を変えることで陽電子ビームの侵入深さを評価する。また、初年度に問題になったバックグラウンドに対してはチャンバ内壁に散乱で消滅した陽電子によるガンマ線であることがわかっているため、これらを遮蔽により改善して行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、装置の作製にあたっては業者との打合せによる完全オリジナルでの設計による製作物品の作製が必須である。本装置と同じ思想での設計および作製にあたっては、ほとんど他に実施例がないため、今回の様に問題点も出てくる可能性もあり、そのため部分毎に設計作製をすすめて問題点をあぶり出す形で実施してきた。そのため、細かな設計打合せなども予定より長引いており、現時点で、磁場分離から試料前までのラインを完成させたがそこでSN比の向上のための改良が必要になり、設計の修正などを行っているため、当初予定していた装置の設計作製が初年度では完了しなかった。現在も改良と設計および製作にあたって業者との打合せによりすすめており、できるだけ今年度での完成を目指している。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、計画していたオリジナル装置の設計に修正改良を加えた形で、最終的には基本的に予定通りの装置として作製して納品の予定である。そのため、予算の使用が遅れただけであり全体的な使用額には大きな変更はなく遂行する。
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