研究実績の概要 |
昨年度までの研究により、金属イオンの溶液2相間分配系における有機相中では、複数の抽出錯体が数十ナノメートル程度の凝集体を形成していることを明らかにしている。これは、抽出錯体の親水部における水素結合ネットワーク形成でつくられる1次凝集体と、この1次凝集体がファンデアワールス相互作用を介してさらに集合した高次の凝集体であることがわかっている。本年度は、1次凝集体をつくる駆動力の水素結合の状態を分子動力学(MD)計算を用いることで詳細に解析した。錯体、硝酸、水、配位子(リン酸トリブチル; TBP)の間にどのような水素結合が形成されているかを検討したところ、1つの水分子は2つの硝酸分子と水素結合をつくりやすいことや、系中に存在する硝酸のうち約半数は他の硝酸と水素結合をつくりやすいこと、水分子どうしの水素結合はつくりにくいこと等を明らかにした。MD計算のスナップショットに含まれる全ての原子座標をフーリエ変換すれば、X線小角散乱プロファイルを計算できる。この結果と実際のX線小角散乱測定により得られた結果を比較したところ、双方は良い一致を示した。このことから、MD計算で得られた結果の信頼性が確認され、水素結合ネットワークのサイズや形状が明らかになった。結果の一部は米国化学会の物理化学誌(J. Phys. Chem. B, 2018)にまとめられた。本研究で明らかにされた知見は、今後、第三相を形成しない新規な抽出剤や分離システムの開発に波及することが期待される。
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