研究課題
ペロブスカイト構造酸化物ABO3 (A = Ca, Sr, Ba,B=Fe,Co)を2次電池の正極材料として使用し,熱力学的な観点と速度論的な観点それぞれから反応の理解を目指した実験及び考察を進めた.主な成果を以下に記述する.正極反応の電極電位は正極-電解液界面で生成する電解質イオンの酸化物の種類によって異なる.鉄系のAFeOz (z = 2.5~3.0)についての酸素の化学ポテンシャルμは,SrFeOzでは既報の水系電解液中での電気化学酸化・還元の電位から計算可能であり,CaFeOz, BaFeOzについては本申請研究以前の我々の研究で明らかになっている.これらのμを用いて,Li,NaおよびMgなど様々な負極を用いた場合に予想される電位を計算し,実験と比較することで,生成した電解質イオンの酸化物が過酸化物,酸化物いずれであるのかが推定できた.これまでに活物質であるペロブスカイト構造化合物の相や酸素数の変化はX線回折測定で追跡できているが,電極-電解液界面に生成する電解質イオンの酸化物は,生成量が少ないため赤外分光,ラマン散乱,X線回折では有用な情報が得られず種類や組成は明らかになっていなかった.SrCoOz(合成直後あるいは次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に保持した場合にはz = 3,大気中で保持するとz = 2.92)は,電子伝導性があり酸素の拡散係数も大きいため導電助剤や結着剤を含まない緻密な焼結体ペレットを用いた電気化学的還元酸化が可能であったことから,対極にリチウム,電解液には過塩素酸リチウムの炭酸エチレンおよびジメトキシエタン溶液を用いて化学式当たりの電子数で0.7相当の還元を行った.ペレット表面に析出した物質をX線光電子分光によって調べたところ,析出物の最表面は炭酸塩であったが,内部ではLi/O原子比は2/1であり,Li2O生成を示唆する結果が得られた.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,電気化学的酸化・還元が酸素挿入・脱離によって進行するペロブスカイト構造の金属酸化物を正極とすることで,様々な金属負極が使用可能な新しい2次電池システムを提案している.CaFeO3 を正極としてナトリウム負極を用いた場合については既に充放電の実証,熱力学的な考察との一致が得られており,さらにリチウム,マグネシウムなど他の金属負極に適用できることを明らかすることで適用範囲を拡大し,新しい電池が作製できることを立証し.また,そのときの反応について熱力学,速度論いずれの面からも解明することを目的としている.実績欄に記載した通り,熱力学的な考察および実験データを基にした解釈が進んでいる.またマグネシウム負極を用いた充放電が可能であることや,可逆領域等も明らかになってきている.さらに,リチウム負極を用いた際の界面に析出する酸化物についても組成が明らかになった.これらのことから電気化学的還元(放電)反応の定式化がほぼできてきている.以上から順調に進展していると判断した.
引き続き(1)熱力学的な観点と(2)速度論的な観点から,反応の理解と本電池システムの適用範囲の拡大を目指した実験・研究を進めて行く.(1)熱力学的反応解析:正極活物質の構造変化の追跡・生成物の同定電極活物質のX線回折によって結晶相を同定し,格子定数の変化や二相共存状態における含有率の変化をリートベルト解析によって求め,通電電気量との関係を調べる.SrFeOzやBaFeOzは酸素量と構造の関係が詳細に知られており,モデルとして適切な物質である.特にSrFeOz正極,Mg負極の系における正極挙動は,可逆な電気量領域や電位など26年度に明らかになってきた内容を基に本年度中に放電過程における解析の完了を目指す.(2)反応の速度論的評価26年度に確立したセル形状および測定条件を用いて,本年度には様々な負極,電解質において解析を進め,適する電解析溶媒の選定,最適な電極2次構造構築の方針を導く.
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