研究課題/領域番号 |
26289376
|
研究機関 | 香川高等専門学校 |
研究代表者 |
八尾 健 香川高等専門学校, その他部局等, 校長 (50115953)
|
研究分担者 |
高井 茂臣 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (10260655)
薮塚 武史 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (20574015)
岡野 寛 香川高等専門学校, 一般教育科, 教授 (60342565)
遠藤 友樹 香川高等専門学校, 一般教育科, 准教授 (60448024)
相馬 岳 香川高等専門学校, 機械電子工学科, 准教授 (60508266)
山本 雅史 香川高等専門学校, 電気情報工学科, 助教 (60733821)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 緩和解析 / リチウムイオン二次電池 / リチウム / 電極材料 / 結晶構造 / リートベルト解析 / NMR / コンピュータシミュレーション |
研究実績の概要 |
リチウム二次電池電極材料において、リチウムを挿入あるいは脱離後に回路を遮断すると、熱力学的平衡論に向かって電極の構造は変化する。申請者はこの状態変化を経時的に解析することにより、充放電による動的な状態から平衡論的状態に向かう構造緩和過程を明らかにできることを世界に先駆けて見いだして「緩和解析」と名付け、種々のリチウム二次電池電極材料の挙動を解析している。 26年度において、リチウム挿入グラファイトの緩和解析を行い、リチウム挿入時に、リチウム濃度の異なる2つの層間を持つステージ2がまず生成し、これが緩和時間において、リチウムを含む層間とリチウムを含まない層間を持つステージ2に移行することを明らかにしてきた。27年度において、コンピュータシミュレーションにより、格子エネルギー計算を行った。その結果、リチウム量の異なる2つの層間を持つステージ2よりも、リチウムを含む層間とリチウムを含まない層間を持つ理想的なステージ2の方が、エネルギー的に安定であることが示された。ステージ2が、緩和により、前者から後者に移行することが、理論的に証明された。 Li1.5Fe2O3の組成までγ-Fe2O3にリチウムを電気化学的に挿入し、挿入後15 h、 38 h and 2967 hの3種類の試料につき、固体NMRを用いて、リチウムの状態を直接観測し、緩和解析を行った。NMRには、いずれの試料においても、8aサイトと16cサイトのリチウムに帰属できる2本のピークが観察された。緩和時間の増加に伴い、8aサイトのピーク強度が減少し、16cサイトのピーク強度が増加した。結果は、X線リートベルト構造解析を用いた緩和解析結果と一致するものであった。 LiNiO2やLiNi0.5 Mn1.5O4でもそれぞれ緩和過程においてLi-rich相とLi-lean相の分率が変化することを明らかにし、詳細な解析を継続している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は平成24および25年度の挑戦的萌芽研究「電極材料の緩和解析」(課題番号24656581)をさらに継続・発展させ、種々の電極材料においてリチウムの拡散に関して速度論的状態から平衡論的状態に緩和する挙動を明らかにすることを目的としている。さらにこれらの実験から得られた知見から材料設計へのフィードバックも目指している。 27年度は、種々のリチウムイオン2次電池電極材料を合成し、これらについて充放電(リチウム挿入脱離)を行い、局部電池反応を避けるため速やかにセルを解体して電極材を取り出しAr雰囲気下でX線回折測定によるリートベルト解析、さらには、磁化率測定、NMR,コンピュータシミュレーション等により、緩和現象を詳細に解析する計画であった。 リートベルト結晶構造解析から、LiNi0.5Mn1.5O4ならびにLix(Ni0.933Co0.031Al0.036)O2の緩和現象を見いだし、詳しく解析した。リチウムを挿入したグラファイトについては、コンピュータシミュレーションにより、格子エネルギー計算を行った。その結果、リチウム量の異なる2つの層間を持つステージ2よりも、リチウムを含む層間とリチウムを含まない層間を持つ理想的なステージ2の方が、エネルギー的に安定であることが示され、緩和解析の結果を理論的に証明できた。またLi1.5Fe2O3の組成までγ-Fe2O3にリチウムを電気化学的に挿入し、挿入後15 h、 38 h and 2967 hの3種類の試料につき、固体NMRを用いて、リチウムの状態を直接観測し、緩和解析を行い、リチウムの挙動を直接観察し、X線リートベルト構造解析を用いた緩和解析結果と一致することを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度、27年度に引き続き、緩和解析を実施する。種々の電極材料に対して詳細な緩和解析を行う。X線リートベルト解析、中性子回折、NMR、磁化率等、多様な測定を行い、緩和現象を解析する。コンピュータシミュレーションを活用し、緩和現象の理論的考察を行う。種々の電極材料に対し、緩和現象を統一的に記述する理論の構築を行う。これにより、従来の平衡論に基盤を置く固体化学に対し、速度論が加わった固体化学の学問分野を進展させる。電極材料が使用されている状況では、速度論的状態(リチウムの拡散)に常に平衡論的状態に戻す駆動力が働いている。この駆動力に抵抗しながらリチウムの拡散が起こっているといえる。緩和解析の成果に基づき、コンピュータシミュレーションを活用しながら、リチウム拡散に優れ、高性能な充放電特性を有する電極材料の設計・開発につなげる。さらに本研究成果について、学会等に広く「リチウムイオン二次電池電極材料の緩和解析」について得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。議論を深め、総括につなげる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度並びに27年度の結果の一部は28年度に発表するため、学会発表旅費の一部は28年度に使用する。また、26年度、27年度に引き続いて試料合成や充放電を行うため、試薬類や電解液、アルゴンガスなどの消耗品は28年度も使用する。
|
次年度使用額の使用計画 |
学会参加費、旅費として26年度の基金助成金の一部を使用する。また26年度、27年度から引き続いて行う28年度の実験に必要な消耗品類も計上している。
|