研究課題
多くの動物のオスは自らの子孫を残すために、メスに対する求愛行動やライバルのオスに対する攻撃行動など、さまざまな配偶戦略を持っている。これまで求愛行動や攻撃行動などの異性関係および同性関係の二者関係に着目した研究は数多く行われており、脳の分子機構が解明されつつある。しかしながら、自然界の動物集団内には異性と同性が共存しており、異性と交配するためには、性的パートナーとライバルの両方に同時に注意を向ける必要がある。このことに着目した行動の代表例として配偶者防衛行動が知られている。これまでにメダカの三角関係(オス、オス、メス)において、「オスがライバルオスよりもメスから近い位置を維持するように、ライバルオスとメスとの間に割り込む」という形で配偶者防衛を示すことを発見した。本年度はバソトシンやその受容体を合成できないメダカ変異体を作成して行動実験を行った。その結果、三角関係(変異体オス、正常オス、メス)において、変異体オスの割り込み頻度は正常オスより低く、劣位となる傾向が得られた。よってバソトシンホルモンは配偶者防衛において優位になるために必要であることが遺伝学的に示された。また、バソトシン変異体オスが正常オスに勝つことができない原因が、異性に対する性的モチベーションを失ったためか、またはライバルオスに対する対抗心を失ったためかを検証した。その結果、バソトシン変異体オスは正常オスと同程度に、他のオスに対する攻撃行動を示した一方で、異性に対する求愛頻度は正常オスよりも低く、異性に対する性的モチベーションが低いことが明らかになった。このため、バソトシンは異性に対する性的モチベーションを有するのに必要であり、このモチベーションを失ったことが、バソトシン変異体オスが配偶者防衛でライバルオスに勝てなかった原因になっていると示唆される。本研究の成果は PLOS GENETICS に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では社会行動の分子神経基盤を解明することを目的としており、これまでに確立していた配偶者防衛行動の行動実験系とメダカの変異体作成法を組み合わせて、当該行動に必要なホルモン(バソトシン)とバソトシン受容体を同定することに成功した。さらにバソトシン受容体の機能を解析することによって、バソトシン受容体ファミリーの中で、V1a2 バソトシン受容体がオスの社会性行動(配偶者防衛行動、攻撃行動、求愛行動)において中心的な役割を持っていることを解明した。さらに、V1a2 を活性化するリガンドはバソトシン以外にもあり、社会的文脈(二者関係、三者関係等)によって、V1a2 を活性化するリガンドが変化することも示唆した。このとこからバソトシンシステムの新しい活性化様式を示唆することができた。
昨年度の研究によって、V1a2 バソトシン受容体がオスの社会性行動(配偶者防衛行動、攻撃行動、求愛行動)において中心的な役割を持っていることを解明した。しかしV1a2 バソトシン受容体を発現するニューロンは脳全体にあり、どのニューロン群が各社会性行動の要素を関連しているのかが不明である。本年度はV1a2 バソトシン受容体の発現ニューロンのサブプピュレーションに神経毒素を発現する遺伝子導入メダカを作成し、どのV1a2 バソトシン受容体発現ニューロンが社会性行動の惹起に重要なのかを検定する。
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PLOS GENETICS
巻: 11 ページ: e1005009
10.1371/journal.pgen.1005009
PLoS ONE
巻: 9 ページ: e112527
10.1371/journal.pone.0112527
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/stay-away-from-my-girl.html
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/4154/