研究課題/領域番号 |
26290004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 正 京都大学, 次世代研究創成ユニット, 特定専門業務職員 (50311197)
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研究分担者 |
三浦 健一郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20362535)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 眼球運動 / LIP / 注意 / 顕著性 / サル / 頭頂葉 / サッカード |
研究実績の概要 |
【本研究の目的】視覚探索において目標とする物体が基本的な特徴次元(例:色や形)で周囲刺激と異なる場合は、視覚的に顕著になる。例えば、多数の赤リンゴがある中で、1つだけ周囲と色が異なる青リンゴは視覚的に顕著になり、注意を自動的に惹きつける(ボトムアップ型注意)。しかしながら、色と形の両方が異なる黄色バナナも存在すると、注意は視覚的顕著性がより強いバナナの方に惹きつけられる。このような特徴次元の統合による顕著性の増強は注意モデル(saliency map仮説)によって古くから指摘されていたが、それを直接的に調べた神経生理学的研究はない。本研究では、視覚的顕著性が多重次元で重ね合わせられるときの後頭頂連合野内での階層的処理構造を、ニューロン活動記録実験、一過性機能脱落実験、及び神経回路モデル構築によって明らかにする。
【研究実績の概要】2頭のニホンザルに、多重次元の視覚的顕著性をもつ目標刺激を眼球運動で探す視覚探索課題を訓練し、課題を遂行中のサルから眼球運動とニューロン活動を記録した。ニューロン活動は、頭頂間溝後壁外側部にあるLIPd野、LIPv野から記録し、100個以上のシングルニューロンからデータを取得した。成功試行となった眼球運動データを解析したところ、目標刺激の視覚的顕著性が高ければ目標に向かう眼球運動(サッカード)の反応時間は短くなり、顕著性が低ければ潜時は長くなることから、刺激により視覚的顕著性の強さが適切に調整されていることが示された。単独、及び複数の特徴次元で目立つ目標とする試行でのニューロン活動を比較したところ、ニューロンの受容野内により目立つ目標(複数の特徴次元で目立つ目標)の場合は、活動強度がより増強されていた。これらのニューロン活動データは、視覚的顕著性の強さをLIP野のニューロン活動強度として表現していることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【進捗状況】2頭のニホンザルに、多重次元の視覚的顕著性をもつ目標刺激を眼球運動で探す視覚探索課題を訓練し、課題を遂行中のサルから眼球運動とニューロン活動を記録した。ニューロン活動は、頭頂間溝後壁外側部にあるLIPd野、LIPv野から記録し、100個以上のシングルニューロンからデータを取得した。当初予想していたニューロンタイプを記録することができたが、予想されなかった活動を示すニューロン群も少なからず記録された。各ニューロンタイプで十分なデータを得るため、当初の計画よりもより多くの記録データを取る必要があり、解析には予定よりも多くの時間を割く必要が生じた。記録実験は終了することが出来たため、計画は概ね順調に進行しているが、データ解析に要する時間増大のため研究成果の論文出版が計画よりも少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
【今後の研究計画】 研究に必要なニューロン活動データの取得は終了したため、データ解析に集中し研究成果の論文出版につなげる努力をする。大規模ニューロンデータの解析スピードを早めるため、演算能力の高いコンピューターの導入を図り、研究成果として2017年度中に1本の英文論文を出版する予定である。また、得られたニューロン活動データをもとに神経回路モデルの構築を行い、脳内での視覚的顕著性の次元統合がどのような計算原理で行われているかをシミュレーションするモデル研究を平行して行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画で予想していたよりも多くの種類のニューロン活動データが記録実験で発見され、そのため当初予想していたよりも取得されたニューロン活動データのサイズが大幅に大きくなった。データ解析に要する時間が計画時よりも延長する必要があり、2015年度中に研究成果を2本の英語論文にまとめて出版する予定であったが、データ解析の遅れに伴い2本目の論文を出版が1年程度伸びる予定である。これらの理由から、出版に必要とされる費用が次年度に繰り越されることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由で2015年度中に終了できなかったデータ解析を2016年度に終了させ、研究成果を英語論文にまとめて出版する。論文出版のために必要な英文校閲費用と出版費用として、2016年度に残した予算(70万円程度)を使用する予定である。
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