研究課題/領域番号 |
26290007
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (20223216)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Shootin / 大脳組織形成 / ノックアウトマウス / ゼブラフィッシュ / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
本研究では、脳組織形成を細胞が発生する力を基盤として解明することを目指す。組織形成のための細胞の移動や配置換えを担う仕組み、特にそのために力を発生させる分子機構は未だ不明である。そこで、Shootin1ノックアウトマウスを用いて前脳形成におけるShootinの役割を解明する。また、前脳にGFPを発現するゼブラフィッシュのライブイメージングにより、Shootinによる前脳形成機構を力の発生と細胞移動・配置換えの観点から明らかにする。さらに、ヒトの前脳形成におけるShootinの関与とその機能破綻が前脳形成障害を引き起こす可能性を調べる。 Shootin1にはスプライシングバリアントShootin1aとShootin1bが存在し、Shootin1のノックアウトマウスでは両方の分子がノックアウトされる。そこで、前脳組織形成にこれらの分子がどの様に関与するかを明らかとするため、まず、in situ hybridization と免疫染色法を用いて前脳の形成時期におけるShootin1aとShootin1bの脳内分布を詳細に解析した。また、ShootinのノックアウトマウスではShootin1の発現部位に一致した前脳の組織形成異常が認められた。興味深いことに、Shootin1bは脳以外に肺、肝臓、胃、腸、脾臓、膵臓、腎臓、皮膚といった抹消組織の上皮にも発現することが明らかとなった。次に、RT-PCRおよびin situ hybridizationによるゼブラフィッシュにおける遺伝子発現解析を行った。その結果、shootin1がゼブラフィッシュ脳に発現をすることが明らかとなった。また、shootin1以外に新たな遺伝子shootin2およびshootin3を見出し脳以外の細胞でもshootin1の発現を確認し、発生時期におけるShootinの分布を詳細に解析した。shootin1、shootin2およびshootin3の変異体ゼブラフィッシュの作成も進行している さらに、Shootinがヒトの前脳形成障害の原因遺伝子である可能性を調べるために、前脳形成障害患者のDNAサンプルを用いて、Shootin遺伝子配列の変異を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点までに、マウスおけるShootin1aとShootin1bの脳および抹消組織における発現領域が明らかとなり、さらにゼブラフィッシュで新たな遺伝子shootin2およびshootin3を見出し、ShootinのノックアウトマウスでShootin1の発現部位に一致した前脳の組織形成異常が確認できたため。また、ヒトの前脳形成障害患者のShootin遺伝子配列解析も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)まず、マウスを用いて前脳形成における神経細胞の細胞移動をモニターする。具体的には胎生14.5日目のマウスの脳を、5-ethyniyl-2’-deoxyuridine (EdU) でラベルして、生後0日目に回収し、その間に移動したラベルされた細胞を解析する。細胞移動の差を野生型およびShootinノックアウトマウスで比較する。また、野生型およびShootinノックアウトマウスの脳から神経細胞を培養し、細胞移動をタイムラプス計測するとともに細胞が生み出す牽引力を細胞牽引力計測法(Toriyama et al, Curr Biol 2013)で解析する。 2)次に、前年度に引き続いてCrisper法を用いたShootin1、Shootin2、Shootin3の変異体ゼブラフィッシュ作成を進める。作成したShootinの変異体の表現型を、脳特異的にGFPを発現するトランスジェニック系統との交配を行って詳細に解析する。さらにShootinの変異が確かに異常表現型の原因であることを確認するために、異常表現型の回復実験を行う。ShootinのmRNAをShootin変異体の受精卵に微量注入し、異常表現型が回復するか否かを調べる。 3)さらに、前年度に引き続き、ヒト全前脳胞症患者のDNAサンプルを用いて、Shootin遺伝子配列の変異を解析する。
以上のゼブラフィッシュ、マウス、ヒトを用いた一連の研究を通じて、Shootinがいかにして脳組織の形成を担うのかを、分子の動態-力の発生-細胞移動・配置換え-組織形成―組織形成の破綻という分子レベルからマクロに至る複数の階層に渡って統合的に理解することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、予想通りの研究成果を挙げたが、予定していた物品が研究室で保存していたものを利用できたため次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の成果を更に高めるため物品の購入に充てるとともに、予定している論文の投稿及び印刷費に充てる。
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