研究課題/領域番号 |
26290009
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
木村 實 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (40118451)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 生理学 / 意志決定 / 大脳基底核 / 視床 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、視床線条体投射による行動学習と行動選択の神経回路メカニズムを明らかにすることである。26年度の研究によって、CM核にはLLF、SLF細胞の他に、感覚刺激には応答しないNSF細胞が多数存在することが確認された。本年度は、特定の行動へのバイアス信号、動機づけや注意による認知的バイアス信号を担っているかどうかを検討した。 視覚の指示によって、右ボタンと左ボタンのいずれかを押さえるHOLD-GO課題を日本ザルに行わせた。50-90試行(1ブロック)の間、指示される行動と報酬量の大小の関係が、右ボタン大報酬―左ボタン小報酬のように一定であるので、サルは報酬量が多い行動の指示が現れることを期待させた。この点は大報酬行動の反応時間が小報酬行動よりも短いことで確認された。予測できない時点で次のブロックに移行し、行動―報酬関係を逆転させた。 NSF細胞は、ボタン押し行動を指示する視覚刺激(GO)が現れる直前に、持続的に放電を増大させた。この活動は、現在の行動ブロックで大報酬に連合した行動に選択的に生じたので、大報酬に連合した行動を素早く、確実に実行できるように予めバイアスをかけることに作用することが示唆された。LLF細胞は、GO刺激で指示される行動が、予めバイアスがはたらいている大報酬行動と同じ場合には、異なる時よりも短い潜時で応答した。この結果は、行動バイアスをGO刺激で支持される行動に反映させるはたらきを持つことを示す。これらの成果は、報酬に基づく意志決定と行動選択に関する視床CM核の役割の理解への重要な示唆を与えた。 大脳基底核の直接路・間接路機能に視床CM核から線条体への投射の役割を知るために、ラットを対象とするシステム神経科学研究、遺伝子工学、光遺伝学を導入し、検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳基底核の機能は、頭頂葉、前頭葉皮質を中心に広範囲の大脳皮質から線条体へ部位特異的に運動、感覚信号、更に選択肢の価値に関わる情報が投射され、中脳ドーパミン細胞由来の動機づけや報酬予測誤差情報によって学習、意志決定と行動選択における役割が次第に明らかになってきている。一方、視床から線条体への強力な投射の機能については、研究代表者らの従来の研究を中心に、顕著な感覚手がかりに対する注意の喚起や行動選択への関与が示唆されている段階であり、神経回路メカニズムの理解が求められている。本研究課題の目的は、視床線条体投射による行動学習と行動選択の神経回路メカニズムを明らかにすることである。26年度の研究によって、CM核にはLLF、SLF細胞の他に、感覚刺激には応答しないNSF細胞が多数存在することが確認された。27年度から現在までの研究によって、1.NSF細胞は、行動の文脈に基づいて報酬に連合した行動に対して予めバイアスをかけることに作用し、報酬に連合した行動を素早く、確実に実行できるように貢献することが示唆された。2.LLF細胞は、外部からの指示でおこなう行動が、予めバイアスがはたらいている行動と同じ場合に、外部からの指示でおこなう行動に対して行動バイアスを反映させるはたらきを持つことを示唆する成果を得た。3.SLF細胞は、刺激と報酬の連合関係や、報酬獲得までの手続きなどが予測に範囲して変化し、“Surprise、びっくり”した時に、特異的に活動し、新しい行動文脈の検出と学習に関わることが示唆された。これらの成果によって、報酬に基づく意志決定と行動選択に関する視床CM核、そして大脳基底核の役割の理解への重要な1歩となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的は、視床線条体投射による行動学習と行動選択の神経回路メカニズムを明らかにすることである。26年度の研究によって、CM核にはLLF、SLF細胞の他に、感覚刺激には応答しないNSF細胞が多数存在することが確認された。27年度から現在までの研究によって、1.NSF細胞は、行動の文脈に基づいて報酬に連合した行動に対して予めバイアスをかけることに作用し、報酬に連合した行動を素早く、確実に実行できるように貢献することが示唆された。2.LLF細胞は、外部からの指示でおこなう行動が、予めバイアスがはたらいている行動と同じ場合に、外部からの指示でおこなう行動に対して行動バイアスを反映させるはたらきを持つことを示唆する成果を得た。3.SLF細胞は、刺激と報酬の連合関係や、報酬獲得までの手続きなどが予測に範囲して変化し、“Surprise、びっくり”した時に、特異的に活動し、新しい行動文脈の検出と学習に関わることが示唆された。今後の研究の推進方策の基本は、報酬に基づく意志決定と行動選択に関する視床CM核から大脳基底核線条体への役割を知ることである。27年度の研究によってLLF 細胞が線条体の被殻に軸索を投射していることを示した。更に、SLF細胞の“Surprise、びっくり”応答が、新しい行動文脈で現れる感覚刺激と報酬・嫌悪などとの連合性Associabilityを表現すること、その情報を線条体のアセチルコリン介在細胞に投射して、新しい行動文脈と報酬や嫌悪との連合学習に貢献するという新しい仮説を、Journal of Neural Transmission誌の総説論文として発表した。今後、トランスジェニック・ラットと光遺伝学を導入して現在進行中の研究、線条体の直接路、間接路の意志決定と行動選択に果たす役割の研究、に視床線条体系の役割を調べる研究を組み込むことによって神経回路機能を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者らは、ラットを対象とするシステム神経科学研究に遺伝子工学と光遺伝学を用いた先端技術を導入する実験系を平成26年度に立ち上げた。26年度には、線条体の間接路細胞(iSPNs)特異的にCreを発現するトランスジェニックラットおよび、チャネルロドプシンChR2アデノウイルス(AAV)を導入した。27年度には現有の行動実験装置、神経活動記録システムを用いて、行動課題実行中のラットのiSPNの神経活動の記録を開始した。その中で、平成28年2月末日に納入予定であったラット脳内の電気活動を記録する電極が、世界で唯一で最先端の製品であるために製造業者による設計ミスが発覚し、納期が予定より8週間遅延(4月末)することとなった。そのために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年2月末日に納入予定であったラット脳内の電気活動を記録する電極が、世界で唯一で最先端の製品であるために製造業者による設計ミスが発覚し、納期が予定より8週間遅延(4月末)することとなった。そのために次年度使用額が生じた。この製品が納入されたので、遺伝子工学と光遺伝学を用いた実験研究に使用した。線条体の間接路細胞(iSPNs)に加えて直接路細胞(dSPNs)の活動を光遺伝学によって同定することに本格的に取り組み、世界に先駆けて成功した。ラットが前肢によってレバーをPush/Pullすることによって報酬を得る行動課題を訓練させた。iSPNsは選択した行動が無報酬であり、次の選択で行動を切り替える時に放電を増大させ、dSPNsは逆に報酬が得られた時に放電を増大させることを見出した。
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