研究課題/領域番号 |
26290017
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩城 徹 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40221098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / アルツハイマー病 / 老人斑 / 神経原線維変化 / 数理形態学 / タウオパチー / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
久山町疫学研究で認知症調査が1985年に開始され、過去30年間の健診データが蓄積されている。そこで1986年から2014年までの29年間に実施された病理解剖1248例(剖検率およそ75%)について脳病理所見を検討し、認知症に関わる脳病理変化をデータベース化した。認知症が375例あり、病理診断に基づく認知症病型別の頻度を明らかにし、その動向を検討した。その結果、男性でも2005年以降はアルツハイマー病が脳血管性認知症を抜いて、最も頻度が高く、特にここ数年の増加が急峻であった。女性では全期間に渡り、アルツハイマー病の頻度が最も多く、増加傾向を示した。近年の動向として高齢化とともにtauopathyの増加が目立った。 次にアルツハイマー病の海馬領域でmRNAの発現変動が顕著な分子種について、免疫組織化学的に検討を進めた。まず肝細胞増殖因子(HGF)の受容体であるMETに注目した。METは対照群では、免疫染色にて海馬錐体細胞の細胞質にほぼ均一な陽性所見が見られ、脳表や血管周囲の一部のアストロサイトにも発現を認めた。一方、アルツハイマー病では海馬錐体細胞ではMETそのものの発現が著明に減少しており、シグナル伝達が低下している可能性が高い。これに対し老人斑周囲のアストロサイトは強陽性を示し、METの発現が反応性アストロサイトで亢進することを明らかにした。HGF/MET経路の神経栄養効果を考慮すると、このMETの減少はアルツハイマー病における神経細胞の生存に悪影響を与えている可能性がある。一方、HGFも老人斑周囲で発現が亢進しているという報告があることから、β-アミロイドタンパク質の蓄積は、HGF経路を介したアストロサイトーシスと関連しているかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
久山町研究の病理解剖は高い剖検率を維持しており、精度の高い認知症研究の基盤となっている。過去30年間の剖検症例の脳病理所見のデータベースは診断基準の改定に合わせて検査項目を追加してきた。この結果、日本人の認知症の動向をかなり正確に把握できていると考えられる。アルツハイマー病の頻度が、この間一貫して増加している事と高齢化とともにtauopathyの増加が際立っている事を示せたことは意義が高いと考えられる。またアルツハイマー病の海馬領域で発現変動が顕著な分子種の病理形態解析も今後、検討すべき候補分子が多数見つかっており、今後の発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
病型別に見た認知症の頻度で、近年におけるアルツハイマー病や神経原線維型老年認知症といったタウ蛋白質の蓄積を伴う変性型認知症の増加が際立っていた。そこで独自に開発したタウ蛋白質陽性病変の定量的解析法を応用して、タウ蛋白陽性病変の時代的変化を検証する。1998-2003年の連続剖検例211例と2009-2014年の連続剖検例202例について、海馬を含む標本をリン酸化タウ蛋白抗体(AT8)で免疫染色を行ない、CA1のリン酸化タウ蛋白陽性病変の定量的データ(パーセント表示による面積比)を計測する。タウ蛋白質陽性病変の程度を年齢別にプロットし、時代的推移を明らかにする。この際、老人斑がCERAD診断基準でmoderateからfrequentに相当する症例を省いた場合の年齢依存性のtauopathyの増加様式も併せて検討する。 昨年度、アルツハイマー病の海馬領域で発現変動が顕著な分子のうち、METについて検討し、論文発表した。同様に発現低下がみられたcarnitine palmitoyltransferase (CPT) 1Cと発現亢進しているAE binding protein 1 (AEBP1)について解析を進める。CPT1Cについては脂質代謝との関連について考察し、AEBP1についてはβ-アミロイドが誘発するinflammasome pathwayとの関連について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額51,580円が次年度使用額として生じた。必要とする試薬等が足りたためと、保存期間が短い抗体は継続的に必要であり、次年度もその購入に充てるため。
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次年度使用額の使用計画 |
認知症の病理診断に必須の抗体の購入に充足する。
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