研究課題/領域番号 |
26290017
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩城 徹 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40221098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 病理学 / 認知症 / アルツハイマー病 / 数理形態学 / タウオパチー |
研究実績の概要 |
1986年から29年間、実施された一般住民の病理解剖計1266例(認知症389例、30.7%)(剖検率約75%)について脳病理所見のデータベース化を完了した。認知症の病型別頻度ではアルツハイマー病(AD)の増加傾向が最も顕著で、さらに神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)の増加が近年目立った。本年度、タウオパチーの増悪を定量的解析によって明らかにする目的で、MATLABによる解析プログラムを応用し、1998-2003年(203例)と2009-2014年(232例)の2群の全剖検例について海馬CA1のタウ蛋白陽性病変の定量的データ(パーセント表示による面積比)を求めた。海馬CA1にタウオパチーが出現し始めるのは60代後半で、年齢に依存してタウの面積が増え、80代から90代では近年の群で優位に増加していた。同じ年齢の高齢層でもタウ病理の総面積が近年著明に増加しており、加齢以外にも増悪因子があることが示唆された。さらに老人斑の少ない群で解析してもタウ病理が有意に増加しており、アミロイド蓄積とは独立して増悪していることが裏付けられた。次にADの海馬領域で発現亢進している分子としてadipocyte enhancer-binding protein 1 (AEBP1)について検討した。AEBP1は正常脳では海馬錐体細胞の胞体に選択的に発現しており、AD海馬ではその発現レベルが神経細胞とアストロサイトで亢進していた。神経原線維変化を有する神経細胞ではAEBP1がほぼ消失していたが、プレタングルを有する神経細胞体や老人斑周囲の変性神経突起に強い発現が見られた。ADではAEBP1陽性神経細胞にNF-κB核内移行が確認された。AEBP1の発現レベルと老人斑との間に正の相関が見られた。これらの所見はAEBP1がAD病理の進展に関与していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目標であった1986年から2014年までの総計1266剖検例の脳病理の解析を完了し、これをもとにアルツハイマー病病理の重篤化や認知症病型の推移を明らかにし、その後の病理解剖症例も追加してデータベースの拡充を図っている。高齢化とともにtauopathyの増加が際立っている事を定量的解析で示し、アミロイド蓄積とは独立して増悪している側面もあることを示せたことは意義深いと考えている。成果を学術誌J Alzheimers Dis.にて発表した。またアルツハイマー病の海馬で発現変動が顕著な分子種の病理解析も進展しており、AEBP1について解析結果がBrain Pathology誌に受理され、オンライン公表されている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、新たに病理解剖を行った症例についても脳病理変化の解析を進め、老人斑、血管アミロイド、神経原線維変化、嗜銀性顆粒、ニューロピルスレッド、レビー小体についてのデータベースを拡充する。さらに認知症調査で得られた様々な臨床データと病理データを統計学的に解析し、その関連を調べ、危険因子の解明を目指す。本年度は特に心機能障害と認知症との関連に注目してデータを収集する。 アルツハイマー病の海馬領域で発現変動が顕著な分子のうち、発現低下がみられたmu-crystallin(CRYM)について脳およびその他の主要臓器における発現をwestern blottingと免疫組織化学染色により解析し、学会発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
210,166円が次年度使用額として生じた。必要とする試薬等が足りたためと、保存期間が短い抗体などが継続的に必要であり、次年度もその購入に充てるため。
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次年度使用額の使用計画 |
認知症の病理診断に必要な試薬や抗体の購入に充てる。
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