研究課題/領域番号 |
26290017
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩城 徹 九州大学, 医学研究院, 教授 (40221098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 病理学 / 認知症 / アルツハイマー病 / 数理形態学 / タウ蛋白 / CRYM |
研究実績の概要 |
1986年から2016年まで31年間に実施された一般住民の病理解剖計1371例(認知症446例、32.5%)について脳病理所見をデータベース化した。これにより認知症病型のトレンドを明らかにした。 近年のタウオパチーの増悪を定量的解析によって明らかにする目的で、MATLABによる解析プログラムを応用し、海馬CA1のタウ蛋白陽性病変の定量的データ(パーセント表示による面積比)を集積した。その結果、海馬CA1のリン酸化タウ蛋白沈着が男女ともに80歳以上において近年有意に増加し、さらに男性において老人斑によらないタウ蛋白沈着も増加していた。最新のNIA-AA診断基準に基づいたアルツハイマー病のステージ分類でも、すべてのステージ群でタウ病理が有意に増加していた。レビー小体型認知症(DLB)のα-synuclein病理は辺縁系においてタウ病理との関連が報告されているが、DLBそのものがタウ病理の増悪をきたす傾向は見られなかった。 アルツハイマー病の海馬領域で発現変動が顕著な分子のうち、発現低下がみられたmu-crystallin(CRYM)についてwestern blottingと免疫組織化学染色により解析した。CRYMはカンガルーの水晶体蛋白質として発見されたが、その後、甲状腺ホルモン輸送担体として組織の成長および発達に関わっていると考えられている他、ケチミンリダクターゼとしての酵素活性を有し、細胞のストレス耐性に関与している可能性が示されている多機能分子である。CRYMは海馬および大脳皮質の錐体細胞、大脳基底核の神経細胞で選択的に発現しており、アルツハイマー病の海馬でCRYMの発現低下がみられた。さらに筋萎縮性側索硬化症(ALS)では脊髄レベルの錐体路でCRYMの発現がほぼ消失しており、錐体路ニューロンの機能障害を鋭敏に検出できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の目標であった1986年から2014年までの総計1266剖検例の脳病理の解析に加えて、2015年と2016年に実施した病理解剖の結果を追加することにより、計1371例に増やし、近年の認知症病型のトレンドをより正確に解析することができた。認知症病型のトレンドに関する研究成果を学術誌や日本認知症学会シンポジウムで報告した。またアルツハイマー病の海馬で発現変動が顕著な分子種の病理解析が進展しており、本年度mu-crystallin(CRYM)について解析結果を論文投稿し、オンライン公表されている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度として2017年度以降に病理解剖を行った症例についても認知症診断のための免疫組織化学染色および数理形態学的解析を行ない、老人斑、神経原線維変化、レビー小体などの病理所見についてデータベースを拡充する。特にtauopathyの数理形態学的解析を大脳基底核や脳幹にまで広げ、その進行を促進する因子として、加齢、Alzheimer病やその他の神経変性疾患との関連を統計解析する。さらに認知症調査で得られた様々な臨床データと病理データを統計学的に解析し、その関連を調べ、危険因子の解明を目指す。昨年度から継続している心機能障害(心不全、不整脈)と認知症との関連に注目しており、データを増やし、統計解析で関連が認められる病態を明らかにする。
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