研究実績の概要 |
久山町研究は1961年に開始された生活習慣病の前向きコホート研究である。この研究の中で、Alzheimer病の有病率がこの20年間で著明に増加していた。この背景因子としてAlzheimer病の代表的な病理所見であるタウオパチーの増悪を半定量的解析によって明らかにする目的で、MATLABによる解析プログラムを応用した。海馬のタウ蛋白陽性病変の解析に引き続き(Hamasaki H, J Alzheimer’s Disease, 2017)、大脳基底核(被殻)におけるタウ蛋白蓄積の半定量的な解析を行った。2009年からの連続剖検291例の解析で被殻のタウ蛋白蓄積を評価した。その結果、被殻におけるタウ蛋白沈着はAlzheimer病で最も多くみられ、Braak stage 5, 6に集中していた。被殻におけるタウ蛋白沈着が高度なものは22例あり、そのうち4例がParkinson病様の錐体外路症状を示した。 Alzheimer病の海馬領域で発現変動が顕著な分子のうち、発現亢進がみられたannexin A1 (ANXA1)についてwestern blottingと免疫組織化学染色により解析した。その結果、ANXA1の発現を老人斑の周囲アストロサイトで認めたが、アストロサイトにおける発現亢進は虚血病変の合併による影響がより大きいことが判明した。我々の検証でヒト脳梗塞グリア瘢痕のアストロサイトでANXA1の発現が顕著に亢進していたが、マウス脳梗塞モデルでは認められなかった。梗塞内部ミクログリア・血管内皮細胞でのANXA1発現亢進はヒト・マウスで共通であったが、梗塞周囲グリア瘢痕辺縁でのアストロサイトANXA1発現亢進はヒトでのみ観察され、動物種による差が見られた。
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