研究課題
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位及び下位運動ニューロンの選択的変性を特徴とする進行性運動ニューロン疾患である。本研究は、複数のALS疾患発症要因の相互連関に関するこれまでの研究から見出された“p62/SQSTM1シグナル系”を制御系候補として、p62/SQSTM1が担う細胞内システム制御系の分子機構とその異常について解析し、最終的にALS発症に関わる運動ニューロン恒常性維持機構、及びその破綻の分子基盤を明らかにすることを目指すものである。平成26年度は、ALS2及びp62/SQSTM1欠損型変異SOD1発現ALSマウスモデルの運動機能等の表現型を行動学的に解析するとともに、脊髄及び大脳皮質における遺伝子発現、オートファジー関連因子の変動、及び組織学的観察による神経細胞体・軸索変性の経時的変化、オートファゴソーム・ミトコンドリア等の細胞内小器官の構造解析を行った。その結果、p62/SQSTM1機能喪失により、変異SOD1発現ALSマウスモデルにおける疾患症状が顕著に悪化するとともに、脊髄運動ニューロン変性、軸索変性及び軸索内へのオートファゴソーム様の膜小胞の異常蓄積が顕著であることが明らかとなった。さらに、ALS2及びp62/SQSTM1の両者を欠損した変異SOD1発現ALSマウスモデルは、ALS2あるいはp62/SQSTM1を単独に欠損したALSマウスモデルよりもさらに早期に発症し、運動機能障害により早期に死亡することも明らかとなった。以上の研究結果から、ALS2及びp62/SQSTM1の機能異常は、ともにオートファジー・リソソーム系の変調をもたらし、それにより変異SOD1遺伝子発現により引き起こされる運動ニューロン変性を悪化させるものと推定された。
3: やや遅れている
本研究は、多種類の遺伝子改変マウスを使用した動物実験であり、順調に繁殖を行うことができた。しかし、各々の遺伝子改変マウス間での交配による多重遺伝子改変マウスの作出効率は、予想より著しく低い(繁殖効率が単一遺伝子改変マウスより低い)ことが判明した。そのため、平成26年度は当初の計画よりも遺伝子改変マウス系統を減らして、主要な系統間の繁殖コロニーサイズを増やした。その結果、現在は多重遺伝子改変マウスの作出は軌道に乗っている。また、RT-PCRによる遺伝子発現、ウェスタンブロッティングによるタンパク質発現、さらに免疫組織学的手法による疾患マウスモデルの分子病態解析も順調に進行している。一方、疾患マウスモデルから得る初代培養細胞を用いた細胞実験については、細胞培養スペースの制限、マウスの交配成績の低さも加わり、計画の進捗度は当初の予定の50%程度に止まっている。この研究の遅れに関しては、マウス生育のスピードを加速させることはできないため、劇的な改善は期待できないが、進捗スピードを除けば、着実に解析は進行しているため、次年度以降に一定の成果が期待される。今後、実験計画の遂行を加速させることにより、最終年度である平成28年度中末までには計画するほぼ全ての実験を完結することは可能であると考えている。
本研究は、計画より若干遅れているが、おおむね順調に進んでおり、研究計画の修正及び変更の必要はない。従って、次年度以降も当初の研究計画に従って研究を遂行する計画である。本研究では、運動ニューロン変性モデルとして、2種類のマウスALSモデル系統(SOD1H46R及びSOD1G93A-TG)とp62-KOとの交配により得られたp62欠損型SOD1H46R-TG、p62欠損型SOD1G93A-TGマウスを作出し、さらにGFP-LC3-TGマウスを各々交配させることにより、オートファゴソーム可視化した種々のマウスALSモデルを継続的する。その上で、発症前からの経時的なLC3陽性オートファゴソームの神経細胞内での分布・局在、数の増減等の変動を行なうとともに、これまでに明らかにされている既存の膜小胞マーカーとの共存の解析により、p62欠損がオートファジー系ならびに運動ニューロン変性に及ぼす影響について明らかにする。また、新たに変異型SOD1-TGマウスとp62-TGマウスとの交配、及び神経特異的p62-KO(p62-flox;Nes-Cre)マウスとの交配実験を行い、神経細胞でのp62の分子機能とALS疾患発症への影響を解析する。さらに、ALS患者で新たに同定されたp62/SQSTM1遺伝子変異の分子機能についての解析を進め、p62変異体が疾患発症にどのように関わるのかについての研究に着手する。一方、細胞レベルでの研究に関しては、上記で作出したマウス系統の組織から線維芽細胞、大脳皮質神経細胞、脊髄前角神経細胞を単離培養する。樹立した初代培養細胞を用いて、オートファジー系及びミトコンドリア系の調節因子と表現型との関連解析を行う。さらに、各種調節分子群の過剰発現あるいはRNA干渉法による遺伝子発現抑制の影響を詳細に解析し、各発症要因間の相互ネットワークを分子レベルで解明する。
実験動物飼育費用として見積もっていた支出額が予定した額より若干安価(差額27,698円)であったため、次年度への繰越金が生じた。
繰越金である27,698円については、次年度は消耗品費として試薬類あるいはプラスティック器具類として使用する計画である。
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Amyotroph. Lateral Scler. Frontotempo. Degen.
巻: 16 ページ: 378-384
10.3109/21678421.2015.1009466