研究課題
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位及び下位運動ニューロンの選択的変性を特徴とする進行性運動ニューロン疾患である。本研究は、複数のALS疾患発症要因の相互連関に関するこれまでの研究から見出された“p62/SQSTM1シグナル系”を制御系候補として、p62/SQSTM1が担う細胞内システム制御系の分子機構とその異常について解析し、最終的にALS発症に関わる運動ニューロン恒常性維持機構、及びその破綻の分子基盤を明らかにすることを目指すものである。平成27年度は、変異SOD1凝集体の蓄積量を増大させるメカニズムを明らかにするために、脊髄におけるユビキチン化タンパク質の存在量を解析した。その結果、ALSマウスモデルでは脊髄の不溶画分において発症後期から終末期にかけて顕著なユビキチン化タンパク質の蓄積が観察された。興味深いことに、そのユビキチン化タンパク質の蓄積は、p62の欠損によって抑制されていた。また、免疫組織染色を用いて脊髄におけるユビキチン化タンパク質を検出した結果も矛盾なく、ALSマウスモデルに見られるユビキチン陽性の凝集体がp62を欠損させることによってその総量は減少していた。しかし、運動ニューロン細胞体でのユビキチン陽性凝集体は逆に増加していた。これらの結果から、脊髄におけるp62やユビキチン陽性凝集体の全てが神経細胞死を誘起するものではなく、むしろ神経細胞での選択的ユビキチン陽性凝集体の蓄積が細胞死を誘起し、p62欠損は神経細胞への選択的蓄積ならびに細胞死を加速させることが新たに明らかにされた。さらに、神経細胞以外で観察されるユビキチン陽性凝集体は、神経細胞を保護するために有害物質を隔離すべく形成されているものであり、p62欠損は有害物質の無毒化作用の減弱をもたらしている可能性が示された。
3: やや遅れている
本研究は、多種類の遺伝子改変マウスを相互に交配することにより、複数の遺伝子の個体レベルでの影響を解析する実験を継続して実施している。多くの遺伝子改変マウスの個々の系統での繁殖状況は良好であるが、多重交配による変異マウスの作出効率は、予想より著しく低いのが現状であり、昨年度に引き続き当該問題は解決に至っていない。しかし、主要な系統の繁殖コロニーサイズを増やすことで、実験に必要な最低限の個体数は得られている。
本年度は、新たに変異型SOD1-TGマウスとp62-TGマウスとの交配、及び神経特異的p62-KO(p62-flox;Nes-Cre)マウスとの交配実験を継続し、個体レベルでの脳・脊髄神経細胞におけるp62の特異的分子機能とALS疾患発症への影響を解析する。さらに、ALS患者で新たに同定されたp62/SQSTM1遺伝子変異の分子機能についての培養細胞レベルでの分子機構解析を進める。具体的には、p62-KOマウス由来の胎仔大脳皮質及び脊髄由来の初代神経培養細胞に野生型p62及び変異体を発現させ、神経細胞内におけるp62の局在・動態解析を行う。予備実験の結果、神経細胞の細胞体と軸索及び樹状突起において一部のp62陽性小胞においてp62とLC3が共存し、p62の一部は軸索と樹状突起に存在するオートファゴソームに局在することを明らかとしている。今後、特に重要な上記2系統を用いた動物実験及び培養細胞実験を集中的に実施することにより、実験計画の遂行を加速させ、最終年度である平成28年度中末までに、p62/SQSTM1が担う細胞内システム制御系の分子機構とその異常、及びALS疾患発症の新たな分子的側面を明らかにする計画である。
平成27年度の実験動物飼育費用として見積もっていた支出額が予定したより若干安価(差額318,026円)であったため、平成28年度に繰越金が生じた。
平成28年度は、動物実験に関わる繁殖コロニーを増加させるため、繰越金(318,026円)については動物飼育経費として使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Autophagy
巻: 12 ページ: 1-222
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Amyotroph. Lateral Scler. Frontotempo. Degen.
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