研究課題
血管内皮細胞が VEGF 刺激を受けて活性化するとき、転写因子 NFAT の核内移行と転写活性化が早期に生じる。この内皮活性化調節を最適化するため、 NFAT の feedback modulator であるダウン症因子 (DSCR-1) が誘導され、恒常性維持に大事な機能を果たしている。これまでに DSCR-1 を一過性に過剰発現することで、病的な血管新生や過度の炎症を防護できることを明らかにしてきたが、発生期からDSCR-1 が feedback 制御を超えて構成的に安定発現するとどのような影響が認められるか、内皮特異的かつ doxycyclin 依存的な DSCR-1 transgenic (Tg) マウスを3系統樹立した。その結果、いずれの系統も DSCR-1 の発現が高いものは内皮増殖やその後の血管リモデリングが障害を受け、早期に致死に至ること、部分的にダウン症の病態と類似した表現型をDSCR-1 の1つの因子で再現出来ることが判明した。一方、ダウン症患者が動脈硬化罹患率が低いことに関するDSCR-1 の寄与を検討するため、DSCR-1Tg マウスとApoE 欠損マウスを掛け合わせ、高脂肪食付加したところ、ApoE 欠損マウスでの動脈硬化病変形成が DSCR-1 Tg により、強く阻害されることが明らかとなった。一方、DSCR-1 欠損マウスとApoE 欠損マウスを掛け合わせた場合では、ApoE 欠損に比べ、さらに高コレステロール血症を示し、大血管の炎症よりも末梢の炎症が加齢に応じて進み、最終的に高度の確率で角膜混濁が生じることが明らかとなった。また、内皮細胞の VEGF シグナルでの分子機構を明らかにする目的で、ES 細胞から内皮分化に至るトランスクリプトームやエピゲノミクスを統合し、システム解析を試みたところ、内皮分化に必須な転写ネットワークが存在し、その転写因子群の発現制御領域はいずれも分化前のブレーキヒストンマークからアクセルヒストンマークにスイッチし、正常に内皮分化が引き起こされる仕組みが明らかとなった。 (Nucleic Acids research. In press)
2: おおむね順調に進展している
DSCR-1 Tg マウスの表現型解析が地震後再開出来ていること、DSCR-1 欠損マウスと ApoE 欠損マウスにおける病態観察から加齢に伴う新しい疾患のメカニズムが明らかになる道筋が立っていることから判断した。これらを論文化することで全て完結できるので、その研究体制をより強固にする必要がある。熊本地震からの復旧が進み、研究面ではスピードアップできるようになりつつある。
DSCR-1 欠損マウスと ApoE 欠損マウスでの加齢性疾患の主因となるものを見つけており、これが NFAT の転写制御下にあることも確認出来ている。この因子を阻害することで、角膜混濁がどのように緩和されるか検討し、最終的な論文化への道筋を立てていく。
熊本地震により、一時的に研究活動がストップした。そのときの計画に合わせた研究費を今年度用いる。
当研究目的に応じた、研究活動における試薬、消耗品を購入し、論文化への道筋を立てる
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (3件)
Nucleic Acids Research
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1093/nar/gkx159
Translational Cancer Research
巻: 5 ページ: Supplemental 3
http://irda-vascular.kuma-u.jp/news/2017/03/es-nucleicacidsresearch.html
http://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2016-file/release170317.pdf
http://www.lsbm.org/news/2017/0323.html