研究課題
Basal-like乳癌細胞株であるHCC38細胞やHCC1143細胞および一部の乳癌臨床検体においてBasal-like乳癌様のEpCAMを強く発現する細胞集団と、Claudin-low乳癌様のEpCAM発現が低い集団が共存していることに注目し、乳癌幹細胞の維持機構解明の観点から異なる性質の細胞が共存する機構について解析を行った。初めに各集団をFACSによって分取し遺伝子発現を検討した結果、EpCAM発現の高い集団はCLDNやBasalケラチンを高く発現する上皮様の性質を示し、EpCAM発現の低い集団はZEB1/2を高く発現し、CLDNやBasalケラチンの発現が低い間葉系細胞の性質を持つことが分かった。ZEB1/2の発現と上皮マーカーの発現が集団間で逆相間を示すことから上皮間葉転換EMTの関連が示唆された。そこで次にこれらの細胞集団が相互に変換可能であるかを調べるためにsingle cell sortingによって各集団の細胞をcloningしてEpCAMの発現プロファイルを調べた。その結果、ほとんどのcloneにおいてその頻度は異なるものの両画分が存在する事が分かり、これらの2つの集団は相互に変換可能であることが分かった。さらに、EMTを誘導する転写因子であるSnailの過剰発現によってEpCAM低発現の集団が顕著に増加することも分かり、EMTとMETによって相互に変換することで培養条件下において両者のバランスが維持されていることが分かった。このEMTやMET制御機構を調べるために、各細胞集団を単独もしくはお互いの集団を混合して培養を行ったところ、間葉様の集団は周囲の上皮様細胞のEMTを促進し、逆に上皮様の集団は周囲の間葉様細胞のMETを促進することが示唆された。さらにお互いの集団の細胞上清ではこのような変化は見られなかったことから細胞間接触の重要性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
一般的に上皮様細胞は増殖能が高く、一方で間葉様細胞は増殖能は低いものの細胞生存能が高く、抗腫瘍免疫に働く樹状細胞を抑制することなどが報告されていることから、今後、より詳細な解析を行いBasal-like乳癌におけるEMTとMETによる上皮様・間葉様の両細胞のバランスの維持が腫瘍の悪性化に果たす重要性を明らかにしたい。
1)癌幹細胞特異的なNOTCH標的遺伝子をsiRNAあるいはshRNAでノックダウンし癌幹細胞維持に必須な役割を果たす標的遺伝子を同定し、癌幹細胞維持の分子機構を明らかにする。2)NOTCH1,NOTCH2,NOTCH3,NOTCH4の中で癌幹細胞維持における役割に差がある場合には、その原因が発現量によるのか受容体の構造の違いによるのかを明らかにし、その生理的な意味を明らかにする実験を行う。3)Basa1タイプ乳癌特異的なNOTCHシグナル経路の同定を目指す。Luminalタイプ及びClaudin-lowタイプ乳癌細胞との比較から特異性に関与するタンパク質を同定する。4)手術検体の例数を増やし、細胞株で観察されたNOTCHシグナルの癌幹細胞維持機能のBasalタイプ特異性がprimaryの乳癌細胞にも適応できるかを検討する。また、計画3)で同定される幹細胞特異的なNOTCHシグナル制御に関わるタンパク質の挙動を手術由来検体で解析し、Basalタイプ乳癌での癌幹細胞特異的なNOTCHシグナル制御がprimaryの乳癌細胞にも適応できるかを検討する。
Basalタイプ乳癌細胞株における遺伝子ノックダウンについてた種類の遺伝子で成功していたが、4種類のNOTCH受容体の特異的ノックダウンについては条件検討に時間を要した。条件検討をほぼ終えたのでその後の計画を次年度に実施することにした。
1)NOTCH1~4のうちどの受容体が主要な役割を果たしているかを解明する。2) 役割に差がある場合には、その原因が発現量によるのか受容体の構造の違いによるのかを明らかにし、その生理的な意味を明らかにする実験を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
Mol. Cell. Proteomics
巻: 15 ページ: 1017-1031
10.1074/mcp.M115.049999
Bioinformatics
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1093/bioinformatics/btw164.
Nat. Struct. Mol. Biol
巻: 22 ページ: 222-229
1038/nsmb.2970
Retrovirology
巻: 12 ページ: 12
10.1186/s12977-015-0139-7
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 10758
10.1038/srep10758
J. Biochem
巻: 158 ページ: 485-495
10.1093/jb/mvv064
J. Exp. Med
巻: 212 ページ: 1967-1985
10.1084/jem.20141898
PLoS ONE
巻: 10(10) ページ: e0141650
10.1371/journal.pone.0141650