研究課題/領域番号 |
26290037
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 智聡 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | がん抑制遺伝子 / がん代謝 / がん / 代謝 / がん幹細胞 / コレステロール / 糖代謝 / グルタミン |
研究実績の概要 |
RBがん抑制遺伝子産物の不活性化は、大半の種類の腫瘍において、発がん時よりもむしろ悪性進展時において頻繁である。また、その帰結は、未分化性誘導、薬剤耐性出現、代謝リプログラミングや炎症の惹起など、従来知られた細胞周期制御の破綻では説明できない事象群であることが判ってきた。本研究では、RBの細胞周期制御以外の機能を探索するために我々が開発した実験系を用い、がん進展制御標的としての新規RB 不活性化シグナチャーを探索した。また、これまでの研究においてRBの新規標的として同定した遺伝子群のうち、メバロン酸経路関連遺伝子群、解糖系制御に関わるPGAM1,2そしてグルタミン経路制御に関わるIDH1が、RB不活性化によって誘導される未分化状態維持に必要な代謝フローの形成に関わることを見出しており、この臨床的意義を探索した。まずRB不活性化によるメバロン酸経路の亢進は、コレステロールおよびその代謝物の合成を高め、おそらくこれらの代謝物の被酸化能によって細胞中の活性酸素のレベルを下げること、がん細胞の悪性化と密接に関わるとされるlipid dropletの主要な成分であるエステル化体コレステロールの蓄積を誘導する可能性が示唆された。一方、PGAM1,2は、RBによる解糖系制御を介在する最重要の分子であることが判明し、この遺伝子群の転写制御機構も明らかになった。13C 標識グルタミンを用いたトレーサー解析によって、IDH1あるいはIDH2を介する還元的カルボキシル化がRB不活性化によって誘導された未分化状態において亢進することが判明した。この臨床的意義を探索中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
その理由は、概要に記載したとおり、メバロン酸経路、解糖系、グルタミン経路の三つの課題で、それぞれ、研究の顕著な進展があったからである。我々は、本研究以前に、最先端・次世代研究開発支援プログラムによる支援を受け、Flux Analyzer等、代謝研究に必要な機器をそろえ、経験を蓄積するとともに、大阪大学や千葉大学との共同研究によって研究技量の拡充を行ってきた。また、RBの細胞周期非依存的機能に関しては、15年以上の研究歴があり、様々な要因が重なって本年度の成果に結びつけることができたのだと思う。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、臨床的にfidelityの高いモデルにおいて、RBの細胞周期非依存的、とりわけ代謝制御における機能に注目する。若年p53-/-; Rbflox/flox マウスより分離した乳腺および前立腺上皮細胞の初期培養を行い、cre recombinaseを導入する。これによって腫瘍原性とスフェア形成能を獲得した細胞群を樹立した成功した。マイクロアレーおよびRNAシーケンス法によってこのコンテクストにおけるRB標的を決定したので、検証と臨床的意義の探索を行う。コレステロールの被酸化能は、3H標識体コレステロールを細胞に取り込ませ、いくつかの酸化物を票品としてマススペクトル解析を行うことによって、これを明らかにする。RBとPGAM1,2の関係に依存する糖代謝制御が胃がん細胞株の挙動に影響することが判明したので、この臨床的意義を様々な角度から探索する。IDHの逆反応は13Cトレーサー解析によって評価できる体制が整った。この反応は、酢酸代謝とも連動する可能性が示され、更なる探索が必要である。RB-ChIPシーケンスは、qPCRで条件調整を行っており、実施を目指す。
|