研究実績の概要 |
慢性骨髄性白血病(CML)幹細胞はCML細胞の供給源となる細胞であり,治療後,残存したCML幹細胞は再発の原因となる.本研究課題では,TGF-βシグナル伝達分子Smad3のリン酸化制御によるCML幹細胞の維持機構の解明を目的とする.平成26年度,テトラサイクリン誘導型CMLマウスモデルを用いて,CML幹細胞に特異的なSmad3のリン酸化サイトを解析した.まず,Scl-tTAトランスジェニックマウス(造血幹細胞特異的プロモーター制御下, テトラサイクリン制御性転写活性化因子tTAを発現)とtetO-BCR-ABL1トランスジェニックマウス(tTA 依存的にBCR-ABL1の発現を制御)を交配し,Scl-tTA・tetO-BCR-ABLダブルトランスジェニックマウスを樹立した.このテトラサイクリン誘導型CMLマウスの大腿骨の骨髄単核球から,セルソーターを用いて,最も未分化な長期CML幹細胞 (CD150+CD48-Flt3- cKit+Sca-1+分化マーカー陰性細胞)を純化した.このCML幹細胞における Smad3のリン酸化状態をDuolink in situ PLA法を用いて解析した.Smad3にはTGF-β I型受容体キナーゼやその他のキナーゼによってリン酸化される複数のリン酸化サイト(Thr178, Ser204, Ser208, Ser213, Ser422, Ser423, Ser425)が報告されているが,このうち長期CML幹細胞特異的なリン酸化サイトを見出した.次に,生体内での長期CML幹細胞の維持におけるSmad3のリン酸化制御の意義を明らかにするため,リン酸化サイトをアラニン残基に置換した非リン酸化型Smad3を発現するレトロウイルスベクターを構築した.この非リン酸化型Smad3をCML幹細胞に導入し,レシピエントマウスに移植を行った結果,生体内における長期CML幹細胞の維持能力が低下することが明らかとなった.従って,CML幹細胞の未分化性の維持にはSmad3のリン酸化制御が重要な役割を担うと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,CMLの再発の原因となるCML幹細胞の維持機構を解明することを目的とする.従来,CML幹細胞の解析では,レトロウイルスベクターを用いてヒトCMLの原因遺伝子BCR-ABL1を造血幹細胞に導入し,この細胞を放射線照射したレシピエントマウスに移植するCMLマウスモデルが用いられてきた.しかし,この移植型CMLマウスモデルでは充分な細胞数のCML幹細胞を得ることが困難であった.そこで,テトラサイクリン誘導体ドキシサイクリンの投与によってCMLの発症を制御することができるScl-tTA・tetO-BCR-ABLダブルトランスジェニックマウスを用い,同調的にCMLの発症を誘導することで,生体内で非常に少数しか存在しない最も未分化な長期CML幹細胞 (CD150+CD48-Flt3- cKit+Sca-1+分化マーカー陰性細胞)を得ることに成功した. この長期CML幹細胞において,Smad3のリン酸化状態を解析した.当初,蛍光免疫染色法によりリン酸化サイトの評価を試みたが,非特異的抗原抗体反応等により,リン酸化サイトの評価は困難であった.そこで,Smad3のそれぞれのリン酸化サイトに対する抗リン酸化特異的Smad3抗体と抗Smad3抗体を組み合わせて評価を行うDuolink in situ PLA法により,長期CML幹細胞におけるSmad3のリン酸化状態を解析した(Duolink in situ PLAは,PLA probeで標識した二種類の抗体が近接する場合,DNAポリメラーゼ反応が進行することを利用して,リン酸化状態やタンパク間相互作用の高感度検出が可能な解析法である). このDuolink in situ PLA法による解析の結果,長期CML幹細胞特異的なリン酸化サイトが明らかとなった.これらのリン酸化サイトをアラニンに置換した非リン酸化型Smad3を導入した長期CML幹細胞では,生体内における維持能力が低下し,CML幹細胞が減少することが明らかとなった.
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