研究課題
慢性骨髄性白血病(CML)幹細胞はCML細胞の供給源となる細胞であり,治療後に残存したCML幹細胞は再発の原因となる.本研究課題では,TGF-βシグナル伝達分子Smad3のリン酸化制御によるCML幹細胞の維持機構を解明することを目的とする.これまでに,テトラサイクリン誘導型CMLマウスモデルを用いて,CML幹細胞に特異的なSmad3のリン酸化サイトを解析した.まず,Scl-tTA・tetO-BCR-ABLダブルトランスジェニックマウスを樹立した.このテトラサイクリン誘導型CMLマウスの大腿骨の骨髄単核球から,セルソーターを用いて,最も未分化な長期CML幹細胞 (CD150+CD48-Flt3- cKit+Sca-1+分化マーカー陰性細胞)を純化した.このCML幹細胞における Smad3の各リン酸化サイトのリン酸化状態をDuolink in situ PLA法を用いて解析した.その結果,長期CML幹細胞において特異的にリン酸化されるリン酸化サイトを見出した.次に,生体内での長期CML幹細胞の維持におけるSmad3のリン酸化制御の意義を明らかにするため,当該リン酸化サイトをアラニン残基に置換した非リン酸化Smad3を発現するレトロウイルスベクターを構築し,この非リン酸化型Smad3をCML幹細胞に導入した.この非リン酸化型Smad3をCML幹細胞をレシピエントマウスに移植して白血病発症能を解析した結果,生体内における長期CML幹細胞の維持能力が低下することが明らかとなった.そこで,CML幹細胞において,Smad3のリン酸化制御を担う上流のキナーゼを解析した結果,p38MAPKがSmad3のリン酸化に必須な役割を担うことを解明した.
2: おおむね順調に進展している
これまでに,CMLマウスモデルを構築して最も未分化な長期CML幹細胞におけるSmad3のリン酸化サイトを明らかにした.さらに,当該Smad3のリン酸化制御を担う上流のキナーゼを明らかにした.このキナーゼを阻害することが出来れば,CML幹細胞に対する新しい治療法となる可能性があり,おおむね順調に進展していると言える.
今後,p38MAPK阻害剤によるCML幹細胞のin vitroでのコロニー形成能の抑制効果を明らかにする. また,CMLを発症したマウスに対して,p38MAPK阻害剤のCML幹細胞の維持に及ぼす効果を解析し,当該メカニズムを標的とするCML幹細胞の新しい治療法の開発を試みる.さらに,CML発症マウスに対して,p38MAPK阻害剤とチロシンキナーゼ阻害剤の併用投与を行い,CMLの再発予防効果を明らかにする.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 図書 (2件) 産業財産権 (1件)
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