研究課題/領域番号 |
26290043
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
堺 隆一 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (40215603)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経芽腫 / ALK / Flotillin-1 |
研究実績の概要 |
神経芽腫細胞TNB-1にタグ付きのALK全長を発現し、タグの抗体および抗リン酸化チロシン抗体4G10の2段階のカラム精製によりALKと結合するチロシンリン酸化蛋白質を質量分析により次々に同定していった。新規のALK結合リン酸化蛋白質のうちFlotillin-1(FLOT1)、PTPN11(SHP2)、SH2B1については、特異的抗体やsiRNAを用いた解析を進めた。特にFlotillin-1(FLOT1)はパブリックデータベースの解析で、その発現量の低いことが神経芽腫の予後不良と関わることから、特に注目してALKとの関わりで機能解析を進めた。FLOT1は細胞膜上のラフトに局在し、エンドサイトーシスに関わることが知られていたため、ALK蛋白質の分解に関わる可能性を考えた。蛍光染色でFLOT1はラフトおよびエンドソームと考えられる細胞質内の顆粒においてALKとの共局在が認められた。神経芽腫細胞においてFLOT1の発現をRNAiで抑制すると膜上のALK蛋白質の量が著明に増加することから、FLOT1はALKと選択的に結合しエンドサイトーシスを介してALK蛋白質の分解に関わることが示された。また、神経芽腫で見られるF1174Lなど幾つかの変異に関して、変異型ALKとFLOT1との結合能が野生型に比べ著明に減少しているのが確認された。一方で神経芽腫でFLIOT1の発現をノックダウンにより抑制すると、細胞運動能、足場非依存性増殖、ヌードマウスにおける造腫瘍能などが増加するという結果も得られた。以上のことからFLOT1の発現低下やFLOT1との結合能が低いALK変異によりALK蛋白質の安定性が増すことが神経芽腫のがん化シグナルの増強に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALK結合分子としてShcC、IRS-1/2、SOS1/2、PI3K、ZO-1/2など他のALK活性化腫瘍で既知のALK結合分子群に加え、新たにCortactin、Drebrinなどのアクチン結合タンパク質、Flotillin1 、SH2B、SHP2など蛋白質安定性やリン酸化、局在を制御する分子を見つけ、機能解析を開始した。Flotillin-1についてはそのALK受容体の分解を制御する蛋白質としての機能と神経芽腫の悪性化における役割を明らかにし、Cancer Research誌に発表することができた。SHP2やそのほかいくつかの分子についても神経芽腫における機能解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト神経芽腫組織の解析においても予後不良群の組織でFLOT1の発現は低下しており、FLOT1の発現低下やFLOT1との結合能が低いALK変異によりALK蛋白質の安定性が増すことが神経芽腫のがん化シグナルの増強と悪性化に関わり、このような細胞はcrizotinibなどALK阻害剤に感受性が高い可能性が示唆された。このことを今後マウスモデルを用いて検証する。また同じくALKに結合する分子として新たに同定したチロシンホスファターゼSHP2(PTPN11)は、ALK自体またはSrcによりチロシンリン酸化を受け、神経芽腫細胞のアポトーシス抑制に関わることが示された。SHP2はドッキング分子ShcCとともにALKと複合体を作り、ALKの活性化シグナルを下流のErkやAktに媒介して神経芽腫の進展を制御していると考えている。ALKのシグナルを負と正に制御するこの2つのシステムのバランスが、神経芽腫の薬剤感受性、幹細胞性、転移能などの性質にどのように関わるか今後調べる必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する抗体が、欠品のため年度内に納品することができず、次年度4月に納品されることになったため、この金額を次年度に使用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に納品できなかった抗体の購入に充てる。
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