研究課題/領域番号 |
26290043
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
堺 隆一 北里大学, 医学部, 教授 (40215603)
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研究分担者 |
白木原 琢哉 北里大学, 医学部, 助教 (30548756)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ALK / Flotillin / Shp2 |
研究実績の概要 |
受容体型チロシンキナーゼの一つであるAnaplastic Lymphoma Kinase (ALK)は、神経芽腫の一部では遺伝子増幅や点突然変異による活性化が、悪性リンパ腫や肺がんの一部では染色体転座による活性化が見られ、これらの腫瘍の発生に直接関わる分子であることが近年示されているが、ALKが特定の腫瘍を引き起こすメカニズムはまだ全く分かっていない。そこで本研究では神経芽腫におけるALK受容体キナーゼに結合するチロシンリン酸化蛋白質の解析を進めた。これまでに膜蛋白質Flotillin-1(FLOT1)がALKと結合してそのエンドサイトーシスと分解に関わることを示したが、さらにTNB-1細胞においてノックダウンによりFLOT1の発現量を下げると造腫瘍能が増す一方で、クリゾチニブやアレクチニブなどのALK阻害剤に対する感受性も増すことを新たに示した。 また同じくALKと結合するリン酸化蛋白質として同定されたチロシンホスファターゼSHP2は、以前より研究を進めていたShcCを介してALKと結合し、ALKによる悪性化シグナルを増強する方向に働くことを示した。ShcC-SHP2経路はErk1やSTAT3など下流分子の活性化を誘導することに加え、Srcキナーゼによっても制御を受けていることが示唆され、新しい治療標的になりうる可能性を考えている。また、ALK阻害剤は現在ALK遺伝子の変異を伴う症例にのみ用いられているが、ALK蛋白質の高発現はALKの活性化変異や遺伝子増幅の存在しない大多数の神経芽腫の症例でも認められるため、FLOT1やShcC-SHP2経路のバランスによってALK阻害剤に対する感受性を予測すればその適応を拡大できるのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのALK結合蛋白質の解析により、複数の重要なシグナル伝達分子の神経芽腫における役割を新規に明らかにすることができた。具体的には、同定した約30のリン酸化蛋白質のうちIRS1、SOS1、Grb2、ZO-1など幾つかについてはALKとの結合がリンパ腫など他の系でもすでに報告されており、この手法でALK結合蛋白質が確かに同定されていることが示唆された。新規のALK結合チロシンリン酸化蛋白質の一つFlotillin-1(FLOT1)は神経芽腫においてはALKと選択的に結合し、エンドサイトーシスを介してALK蛋白質の分解に関わること、FLOT1の発現低下によりALK蛋白質の安定性が増すことが神経芽腫のがん化シグナルの増強に関わることが示された。実際、FLOT1の発現量の低いことが神経芽腫の予後不良と関わることも認められた。 また神経芽腫でALKがチロシンホスファターゼSHP2と複合体を形成していることを明らかにした。この両者の結合はALKのチロシンキナーゼ活性に依存しており、ALKが活性化したNB39-nu細胞をクリゾチニブのようなALK阻害剤で処理すると、SHP2の540番と580番のチロシン残基でのリン酸化を抑制することを観察した。更にドッキング分子ShcCのノックダウンによりALKとShcCの結合が抑制されたことから、両者の結合がShcCを介していることが示唆された。Shp2ホスファターゼの阻害剤PHPS1の処理により、NB39-nu細胞のERK1/2の活性や、増殖能・運動能が低下した。以上の事よりSHP2とALKの相互作用が神経芽腫の進展に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ALKの活性化変異は全体の7~8%程度であるとみられ、遺伝子増幅と合わせても10%程度である。ALKが活性化した悪性リンパ腫や肺がんにおいては、ALK阻害剤が臨床試験にまで進められていて著効を示す例があり、神経芽腫においてもその効果が期待されている一方で、神経芽腫でも、遺伝子増幅例や頻度の高いF1174Lなど幾つかの変異のそれぞれについてALK阻害剤の感受性が大きく異なるとの報告もある。またこれまでの解析で、ALKに遺伝子変異がなくても、ALKの蛋白質量が増加していたり、FLOT1の低下によりALKの安定化が起こっている神経芽腫の症例は予後が悪く、このようなケースではALK阻害剤が効果を示す可能性がある。ALK阻害剤の薬剤感受性を理解するためにはALKがどのようなシグナルを介して神経芽腫の進展に関わるかについて正確に理解する必要がある。さらにALKシグナルの解析は、ALK阻害剤に感受性の低いケースでも下流シグナルを標的とした新たな分子薬剤の開発の可能性につながる。このことを示すためFLOT1やSHP2の発現量を変えたマウスモデルを用いてその検討を行っていくと同時に、下流の蛋白質間相互作用を制御するような低分子化合物の開発によってALKシグナルを遮断することを試みていく。 一方で悪性リンパ腫や肺がんでみられるALKの活性化は、遺伝子再構成を伴ってNPM-ALKやEML4-ALKのように融合蛋白質を形成しており、この両者でALKキナーゼ阻害剤の効果や、耐性獲得機構の違いも観察されているが、このような臨床的な特徴を理解するために、両者のALKの活性化の質的な違いについて活性型ALK蛋白質の代謝やシグナル伝達の面から解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表研究者の堺が平成27年10月に、分担研究者の白木原が平成29年1月に、それぞれ国立がん研究センターから北里大学医学部に異動になり、研究室のセットアップなどのために実験計画に幾らかの遅延が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(消耗品費)として使用する。
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