研究課題/領域番号 |
26290049
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齋藤 義正 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (90360114)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 胆道がん / 膵臓がん / マイクロRNA / エピゲノム |
研究実績の概要 |
①研究代表者らは、世界に先駆けて複数の肝内胆管がん症例から、オルガノイド培養技術により胆管がん幹細胞を1年以上にわたり安定的に培養・維持し、胆管がんオルガノイドを樹立することに成功した。 ②胆管がんオルガノイドにおけるマイクロRNAを含む全遺伝子の発現解析の結果、がん抑制マイクロRNAとして報告されているmiR-34aが、元の組織よりもオルガノイド培養を行っている状態において著明にその発現が抑制されることを発見した。さらにmiR-34aの低下に伴い、CD44を含む標的遺伝子の上昇を認め、これらががん幹細胞の増殖・維持に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。miR-34aは胆管がん幹細胞に対する新たな創薬の標的になると考えられる。 ③胆管がんオルガノイドを長期間培養することで、LGR5を含むがん幹細胞マーカーの上昇、全体的なDNAメチル化レベルの低下などを認めており、オルガノイド培養ががん幹細胞の培養・維持に適していることが示唆された。 ④現在、胆道・膵臓がん患者よりがん組織を提供していただき、さらに多くのオルガノイドを樹立している。将来的にはそれぞれの難治性がんの個性に合致した個別化治療へ展開していきたいと考えている。 ⑤胆管がんオルガノイドは、がん幹細胞の分子病態の解明や薬剤感受性スクリーニングなどにおいて非常に強力な研究ツールとなることを確信している。本研究の成果である、がん組織からのがん幹細胞の効率的な分離・培養方法と胆管がん幹細胞オルガノイドについては、新規性及び進歩性を有し、産業上も利用価値が高いと考えられるため、特許出願を行った(出願番号:特願2014-146144)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、複数の肝内胆管がん症例から、オルガノイド培養技術により胆管がん幹細胞を1年以上にわたり安定的に培養・維持し、世界に先駆けて胆管がんオルガノイドを樹立することに成功した。 胆管がんオルガノイドは、がん幹細胞の分子病態の解明や薬剤感受性スクリーニングなどにおいて非常に強力な研究ツールとなることを確信している。また、オルガノイド培養ががん幹細胞の培養・維持に適していることも確認された。 さらに樹立した胆管がんオルガノイドを用いて、マイクロRNAを含む全遺伝子発現の網羅的解析やエピゲノム解析も順調に進んでおり、難治性がんに対する治療標的の候補も同定された。 以上から、本研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、さらに多くの難治性がんオルガノイドの樹立を試み、以下の研究計画を予定している。 ①難治性がんオルガノイドの樹立と幹細胞ニッチの特定:難治性がん患者から外科手術や内視鏡下生検などにより得られた少量のがん組織を用いて、オルガノイド培養により幹細胞を分離・培養する。幹細胞の維持に必須な因子のみを加えた無血清培地を用いてマトリジェル中で3次元培養を行うことで、幹細胞が分化した細胞とともに立体的な組織構造体(オルガノイド)を形成しながら増殖する。この技術により個々のがん組織由来の幹細胞を永続的に培養・維持すると同時に幹細胞ニッチを特定する。 ②がん幹細胞におけるドライバー遺伝子変異、エピゲノム変化および遺伝子発現変化の解析:次世代シーケンサーを用いてドライバー遺伝子変異およびDNAメチル化解析を行う。ヒストン修飾についてもクロマチン免疫沈降(ChIP)後に次世代シーケンス解析を行うことで網羅的に探索する。さらにがん幹細胞におけるマイクロRNAなどのnon-coding RNAを含む全遺伝子の発現変化をマイクロアレイによって網羅的に解析する。 ③がん幹細胞を標的としたオーダーメイド治療の開発:個々のがん幹細胞において特定された遺伝子変異や発現異常ならびにエピゲノム異常を制御する分子標的治療薬や核酸医薬の開発を行う。オルガノイドを用いたハイスループットスクリーニングに適するアッセイ系を確立する。また、既存薬をリード化合物とした合成展開による新たな低分子化合物の開発などを試み、より活性が強く副作用の少ない効果的な治療薬を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究では、難治性がん由来のがん幹細胞を培養・維持し、オルガノイドを樹立することを主な目的としており、当初はその幹細胞培養に用いるマトリジェルや増殖因子などの費用を計上していた。しかし、予想よりも順調にオルガノイドを樹立することが可能となり、以前購入していた試薬のみで済んだため、未使用額が生じた。しかし次年度以降、さらに多くの難治性がん症例のがん組織からオルガノイドを樹立するため、マトリジェルや増殖因子を大量に必要とする。これらの未使用額を次年度使用額として使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
胆道・膵臓がんにて外科手術を受けた患者より十分なインフォームド・コンセントのもとに提供されたがん組織を研究に使用する。無血清下でEGF、Noggin、R-spondin 1などの幹細胞に必須な増殖因子を加えた培養液を用いてマトリジェル中でオルガノイド培養を行う。症例を蓄積することで多くのオルガノイドを樹立し、個々の症例の幹細胞ニッチを特定する。将来的にはそれぞれの難治性がんの個性に合致した個別化治療へ展開していきたいと考えている。
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