研究課題
肺癌は年間死亡者数が癌腫の中で一位であり、発癌過程の解明、予防、治療法の開発が強く望まれている。我々は、臨床検体と培養細胞双方から肺癌の組織型特徴的な遺伝子発現プロファイルに注目することから、肺癌発生と悪性化、転移に関係する遺伝子や経路を単離してきた。これらの遺伝子や経路は新規分子標的となりうるものの、従来的手法による低分子化合物スクリーニングには限界があり、新規アプローチの開発が強く求められている。この背景の下、我々は新規に発見したEGFR→CERS6→転移経路、およびこの経路依存的セラミドホメオスタシスを標的とする癌転移抑制薬/抗腫瘍薬を開発するための研究を行っている。1. CERS6による転移促進機序に関して。既にCERS6の酵素機能により合成されるC16セラミドがPKCzetaに結合することで活性化を促し、複合体形成を通じてRAC1依存性ラメリポディア形成を行うことが、細胞遊走能に必須であることを示した。また、同様に細胞遊走に深く関与するRhoA-C分子に与える影響についても各種実験を行い、RAC1と反対に抑制的に働くという結果を得ている。2. CERS6阻害剤に関して。分担研究者西田の2000化合物に加え、千葉大学低分子化合物ライブラリーとMTAを締結し、新規に644化合物の提供をえてスクリーニングを行った。この644化合物中よりは目的の活性を有するものは得られなかった。一方、西田のライブラリー中より得られた阻害物質については3種類の類縁体の活性評価を行うとともに、さらに4種の類縁体を合成した。3. セラミドホメオスタシスの破綻による抗がん効果に関して。先年度までにDMPCによる促進効果を報告しているが、28年度はその効果を増強する薬剤を系統的に調べ、D-PDMPを発見した。1.3の結果を合わせ、平成28年1月号のJ Clin Invest誌にて発表を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度設定の3項目については全て目的を達成した。全体を通してみても、当初の予定に沿って、きわめて順調に進んでいる。また、第2のメカニズムの発見など、予想以上の展開を見せ始めている。
1-1. CERS6による転移促進機序に関して。平成27年度中に、RAC1を介する機序を報告した。また、RhoA-Cを介する機序についてもすでに一定の成果を得ている。平成28年度はこの経路について最終的なデータを取得し、論文化を図る。1-2. 基礎研究の臨床応用を目指し、より簡便に多くのスフィンゴ脂質代謝産物を一度に定量するシステム開発を行う。これにより、臨床検体を用いた各種スフィンゴ脂質の網羅的定量が可能となる。セラミドはその固有機能に加えて、スフィンゴ脂質、糖脂質代謝経路のhubでもある。セラミド変化の影響は下流に及び、それがすでに発見した機序とは独立に肺がん転移に関与している可能性が大いに考えられる。セラミドの上流にあるリン脂質もまた、CERS6に基質を提供するという役割を担うことでがん病態に関与する。下流解析と異なり、上流解析においては単純なノックダウン実験でその役割を判定できない。この点を克服し、生理活性脂質の観点から、転移阻害を理解するため、リン脂質に対してもMSチャンネルを設定する。以上の目的の元、平成28年度においてはスフィンゴ脂質、低分子量糖脂質、リン脂質に対してMSチャンネルを設定する。2. 共同研究者の西田と協力し、ヒット化合物の評価を進める。特に、平成27年度中に合成した4化合物に対する各種評価を行う。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (1件)
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