研究課題/領域番号 |
26290055
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 雅彦 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90186594)
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研究分担者 |
不破 信和 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (50156981)
出水 祐介 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50452496)
松浦 成昭 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70190402)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 炭素イオン線 / 陽子線 / がん転移 / がん幹細胞 / 細胞遊走 / 浸潤能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、異なる線質である3種の放射線(光子線:X線、粒子線:炭素イオン線、陽子線)が、がん転移に関わる因子に対してどのような影響が生じるか検討し、遠隔転移抑制を視野に入れた放射線治療を行う為の生物学的な因子を定量的に提供することである。 本年度は、細胞機能に関する実験を主に進めた。ヒト肺がん細胞A549、ヒト乳がん細胞MDAMB-231、ヒト膵がん細胞PANC-1、AsPC-1に対してX線、炭素イオン線、陽子線照射後、がん転移に関わる細胞遊走能ならびに浸潤能を比較検討した。 その結果、低線量のX線(0.5 Gy、2 Gy)を照射されたがん細胞の遊走、浸潤能が亢進した。炭素イオン線の場合、X線でがん転移能の亢進が認められた線量と同等の生物学的効果を有する線量を照射すると、遊走能、浸潤能は抑制された。陽子線照射された細胞は、非照射細胞と比べて遊走能、浸潤能に有意な変化がみられなかった。粒子線は光子線に比べがん転移の抑制効果がみられた。 また、粒子線同士を比較すると炭素イオン線が陽子線に比べ有意に転移能を抑制した。次にヒト膵がん細胞PANC-1、AsPC-1を用いて放射線照射後の細胞状態を観察した。その結果、X線照射後、生存細胞において膵がんがん幹細胞のマーカーであるCD24ならびにCD44の発現が亢進した。炭素イオン線照射された細胞では、CD24、CD44共に発現が抑制された。そこで、膵がん細胞をがん幹細胞と非がん幹細胞に分離し、X線を照射後、細胞の遊走能、浸潤能を比較すると非がん幹細胞は、線量依存的に細胞遊走能が抑制された。一方、がん幹細胞は、X線を2 Gy照射されると細胞の遊走能が亢進した。 本年度の成果では、異なる線質の放射線は、それぞれがん転移に関わる因子に対して異なる影響を与えることが示された。また、がん幹細胞が放射線によって細胞遊走能を亢進させることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
線質の違いによりがん転移に与える影響が顕著にあらわれたことをうけ、再現性の確認の為、細胞機能の評価に時間を費やした。結果、初年度行う予定であった遺伝子発現解析を行うことができなかった。膵癌細胞、子宮頸癌細胞に対する解析は未着手であった。 また動物実験にまで着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
少し計画から遅れている為、研究計画に沿う様、放射線照射後の細胞を用いてタンパク・遺伝子発現解析を早期に行い、動物実験を行うことが主眼である。 膵癌細胞、子宮頸癌細胞には未着手のため、これらのcell lineの実験も行っていく。 これらin vitroとin vivo実験で得られた結果の整合性を検討し、着目した遺伝子の阻害実験をin vitro、in vivo共に行う。H26年度より、得られた結果を集約し、遺伝子、タンパク発現量、細胞機能、in vivo実験結果の相関関係を解析して、線質や線量の違いによる転移への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画の遅れから、DNAチップの使用まで至らなかった、また動物実験にも着手できなかった。この2点の経費の割合は大きく、結果として経費の残存につながった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は予定通り、実験を遂行し、DNAチップ使用実験および動物実験を実施していく。具体的には低線量陽子線照射(< 0.5 Gy)、非照射条件下で肺癌、膵癌細胞株からmRNAを抽出しcDNAを作成し、DNAチップによりANLN遺伝子及び放射線感受性遺伝子群にも着目しつつ、浸潤・転移関連遺伝子群の発現の違いを調べる。 膵癌細胞をがん幹細胞と非がん幹細胞に分離し、低線量放射線(X線、炭素イオン線、陽子線)を照射後ヌードマウスに移植し、肝臓、肺、脳への遠隔転移能を検討する。
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