研究課題
抗原特異的ナイーブCD8T細胞を担がんマウスに養子移入する実験において、メトホルミンで移入前に数時間処理しておいた場合、移入後の腫瘍への浸潤及び多機能性を保持することを以前に証明した。移入CD8T細胞は、OVA257-264+Kbを認識するOTIマウス由来の精製CD8T細胞を、また腫瘍はOVA発現メラノーマ細胞MO5を用いた。この実験系を用い、移入CD8T細胞を各種阻害剤で処理し、上記現象に必須の分子機構を解析した。まず、転写因子IRF4欠損のCD8T細胞では、メトホルミン効果は完全に消失した。次に、メトホルミン処理時にエネルギーセンサーであるAMP activated protein kinase (AMPK)の阻害剤であるcompound Cで同時処理した場合、メトホルミン効果は消失した。メトホルミンはAMPKを活性化し、その結果、mTORを抑制することが知られている。そこで、mTORC1特異的阻害剤であるラパマイシンで移入CD8T細胞を同時処理したところ、以外にもメトホルミン効果は消失した。従って、AMPKの活性化とmTORC1, IRF4が少なくともメトホルミン効果に必須の分子であることが明らかになった。メトホルミン効果がある場合には腫瘍に到達したCD8T細胞のホーミング分子CXCR3の発現が上昇しているが、compound Cおよびラパマイシン処理を同時に加えた場合、CXCR3の発現が低下し腫瘍への浸潤が抑制されることが原因の一つであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
成果報告書に記載した内容はもちろんのこと、エフェクターT細胞のエネルギー代謝に関する事項も解析可能な状況が準備され、今後の進展が期待されるため。
メトホルミンによるCD8T細胞の活性化の分子メカニズム解明のために、最終年度である平成28年度は解糖系と酸化的リン酸化に焦点を絞り研究を進めて完成させる。脾臓から精製したナイーブCD8T細胞をメトホルミンであらかじめ短時間処理し、これを抗CD3抗体および抗CD28抗体、あるいは抗CD3抗体単独で刺激培養して記憶T細胞へと分化させる系を立ち上げた。培養2~5日目における細胞の代謝エネルギーを乳酸産生に伴うpHの低下ECARを指標に解糖系を評価する、及び酸素消費速度OCRを指標に酸化的リン酸化を評価する。これらの指標をもとにメトホルミン暴露によって、解糖系が亢進するのか或いはクエン酸回路に伴う酸化的リン酸化反応が亢進するのか、定量的に明らかにする。続いて、エネルギーセンサーであるAMPKの阻害剤compound C, mTORC1阻害剤であるラパマイシンを入れた場合にメトホルミンによるCD8T細胞の代謝改変がどのように変化するのか、を明らかにする。同時に、AMPKα, mTOR, Akt, PI(3)K, PTENなどのTCR/CD28活性化経路における分子群のリン酸化レベルを検出する。これらの実験を通して、II型糖尿病治療薬メトホルミンによる免疫疲弊解除の分子機構とエネルギー代謝の関係を解明する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 1件、 招待講演 14件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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