成人T 細胞白血病・リンパ腫(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-I)を原因とする難治性の造血器腫瘍である。我々はこれまでにsingle-cell RT-PCR 法でのT細胞受容体(TCR) レパトア解析によって、ATLに対する造血幹細胞移植後にHTLV-Iに由来する転写活性因子Taxを標的とする細胞傷害性T細胞(CTL)が増加し、その中でも特定のアミノ酸配列(“P-D/P-R”配列)を含むTCRレパトアを有するCTLが強い細胞傷害活性を有することを報告した。本研究では強力な細胞傷害活性を発揮するCTLのTCRの全長DNAをクローニングしてレトロウイルスベクターを用いて健常人末梢血単核球に遺伝子導入し、ATLに対する特異的免疫療法の臨床応用を実現するための評価を行っている。HLA-A*2402陽性のHTLV-I感染細胞株に対する殺細胞効果に続いて、HLA-A*2402陽性の患者由来ATL細胞に対する細胞傷害活性の評価を行った。具体的にはNOD/scid/γcnull (NOG)マウスにHLA-A*2402陽性の患者由来ATL細胞を静注し、その3週間後からTCR遺伝子導入細胞あるいは非遺伝子導入細胞(陰性コントロール)を1週間ごとに4回繰り返し静注することによって、TCR遺伝子導入細胞の抗HTLV-I感染細胞効果がHLA依存性に発揮されるかどうかを評価した。すると、TCR遺伝子導入細胞がマウスの体内においてATL細胞に対して強力な細胞傷害活性を有することを示すことに成功した。しかし、非遺伝子導入細胞によってもGVHDの発症とともに、GVL効果によるものと思われる若干の抗腫瘍効果が認められたため、現在はGVHDの発症を抑制する系での評価を検討している。
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