研究課題
正確な遺伝子発現は生命現象の根幹であり、その破綻や異常は様々な疾患の原因となる。本研究課題では、最も初期のタンパク質品質管理機構である異常mRNA由来の遺伝子産物の分解機構(NMPD)の解明を目的とする。平成27年度にはナンセンス変異を持った異常mRNA由来の短鎖型タンパク質分解機構を解析し、以下の結果を得た。①Upf複合体による短鎖型異常タンパク質の分解促進におけるユビキチン化の役割:Upf複合体による短鎖型タンパク質の分解促進には、ユビキチン化が必須である。一方、Upfは短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進しないことが明らかになった。②短鎖型異常タンパク質の分解促進を担う因子の同定:異常に長い3’UTRに依存して、Upf1 とHsp70が短鎖型異常タンパク質と特異的に共精製された。Hsp70のADP/ATPの交換因子であるSse1がUpf1による短鎖型異常タンパク質の分解促進に必要であった。Sse1の変異体解析の結果、 Hsp70との相互作用がNMPDに必須であることを見出した。Sse1は短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進しないことが明らかになった。また、3’ mRNAの末端で停滞したリボソーム中の新生鎖の分解系であるRQCにおけるDom34-Hsb1複合体と40Sサブユニット結合因子であるRack1の機能についても解析を進め、各種変異体の表現型が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
ナンセンス変異を持った異常mRNA由来の短鎖型タンパク質分解であるNMPDの分子機構の理解が進んだ。Upf1による短鎖型異常タンパク質の分解促進にHsp70のコシャペロンであるSse1が必須であり、Hsp70との相互作用がNMPDに必須であることを見出した。さらに、Upf複合体とSse1は、短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進せず、プロテソームへのリクルートの段階を促進する可能性が強く示唆された。従って、本研究課題は、全体として概ね順調に進展していると評価する。
最も初期のタンパク質品質管理機構である異常mRNA由来の遺伝子産物の分解機構の解明を目指し、以下の2項目について研究を実施する。(1)ノンストップmRNA由来の異常タンパク質分解機構の解明:①異常翻訳を認識し解消する分子機構の解析:研究代表者は、新規翻訳複合体Dom34:Hbs1複合体がノンストップmRNAの3’末端で停滞したリボソームのAサイトに結合し、サブユニットの解離を担う因子であることを証明した。Dom34:Hbs1は、リボソームを解離させることでノンストップmRNAの迅速な分解へ導くと同時に、終止コドンに依存しないペプチド鎖の解離反応にも必須であるが、ペプチド鎖解離活性自体は保持しない。終止コドン非依存のペプチド鎖解離因子の同定は、ノンストップmRNA由来の異常タンパク質分解機構の理解に必須である。この目的のため、ヒトDom34:Hbs1相同因子の機能を酵母で解析する系を構築し、終止コドン非依存のペプチド鎖解離反応を引き起こすか検討する。(2)ナンセンス変異を持った異常mRNA由来の短鎖型タンパク質分解機構の解析研究代表者は、Upf1による短鎖型異常タンパク質の分解促進には、Hsp70と複合体を形成し、ADP/ATPの交換反応と共役して基質のフォールディング反応を促進するSse1が必須であることを見出した。Upf複合体とSse1は、ユビキチン化された短鎖型異常タンパク質のプロテソームへのリクルートの段階を促進する可能性を検証するため、Upf複合体またはSse1とプロテソームとの相互作用について解析を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 16021-16030
10.1074/jbc.M114.634592.