【研究の目的】 正確な遺伝子発現は生命現象の根幹であり、その破綻や異常は様々な疾患の原因となる。本研究課題では、最も初期のタンパク質品質管理機構である異常mRNA由来の遺伝子産物の分解機構(NMPD)の解明を目的とする。 【研究の実績と達成度】 平成28年度までに、ナンセンス変異を持った異常mRNA由来の短鎖型タンパク質分解機構を解析し、以下の結果を得た。①Upf複合体による短鎖型異常タンパク質の分解促進におけるユビキチン化の役割:Upf複合体による短鎖型タンパク質の分解促進には、ユビキチン化が必須である。一方、Upfは短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進しないことが明らかになった。②短鎖型異常タンパク質の分解促進を担う因子の同定:異常に長い3’UTRに依存して、Upf1 とHsp70が短鎖型異常タンパク質と特異的に共精製された。Hsp70のADP/ATPの交換因子であるSse1がUpf1による短鎖型異常タンパク質の分解促進に必要であった。Sse1の変異体解析の結果、 Hsp70との相互作用がNMPDに必須であることを見出した。Sse1は短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進しないことが明らかになった。本研究により、ナンセンス変異を持った異常mRNA由来の短鎖型タンパク質分解であるNMPDの分子機構の理解が進んだ。Upf1による短鎖型異常タンパク質の分解促進にHsp70のコシャペロンであるSse1が必須であり、Hsp70との相互作用がNMPDに必須であることを見出した。さらに、Upf複合体とSse1は、短鎖型異常タンパク質のユビキチン化自体は促進せず、プロテソームへのリクルートの段階を促進する可能性が強く示唆された。従って、本研究課題は、全体として概ね順調に進展していると評価する。
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