クロマチンの高次構造は、転写制御に重要な役割を果たしている。クロマチンはセントロメアやテロメア近傍のヘテロクロマチンとそれ以外のユークロマチンに大別できる。ヘテロクロマチンはDNAメチル化やヒストンH3K9トリメチル化に富み、転写が不活発であり、他方ユークロマチン領域の遺伝子は活発に転写される。しかしユークロマチン領域にもヘテロクロマチン領域が散在していることが知られている。私達が同定したATF2ファミリー転写因子は、ヒストンH3K9トリ及びジメチル化酵素を標的遺伝子に運ぶことによりヘテリクロマチン形成に寄与している。一方、染色体末端のテロメアは染色体末端を保護すると同時に、代謝系遺伝子などの転写制御にも関与することが知られている。 本年度は一連の研究からATF2ファミリー転写因子の1つであるATF7がテロメアの長さの制御に関与することを明らかにした。ATF7変異マウスの胎児線維芽細胞(MEFs)のテロメアの長さは、野生型細胞に比べ有意に短いことが示された。ATF7はKu複合体及びトレメラーゼと複合体を形成し、Kuを介してテロメア上にテロメラーゼを運び、テロメアを伸長させる機能を持っていた。さらに精神ストレスにより誘導される炎症性サイトカインTNF-αをマウスに投与すると、ATF7がp38でリン酸化され、ATF7とテロメラーゼがテロメアから遊離し、テロメア短縮が誘導されることが分かった。このようにクロマチン高次構造に重要な役割を果たすテロメアの長さを制御するユニークなメカニズムを明らかにすることができた。
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