研究課題/領域番号 |
26291007
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
原口 徳子 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 上席研究員 (20359079)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞構造 / 核構造 / 核膜孔複合体 / 核膜 / タンパク質 / 核機能 / 蛍光イメージング / 核分化 |
研究実績の概要 |
繊毛虫テトラヒメナには、ひとつの細胞内に、大核・小核という構造と機能の異なる2種類の核が存在する。本研究は、核膜孔が、核機能分化に関与する仕組みとその構造的基盤を明らかにするものである。まず、1)大小核の核膜孔複合体を構成する全ヌクレオポリンを同定し、大小核核膜孔の構造的な違いを分子レベルで明らかにする。そのために、既知の大小核ヌクレオポリン(共通9種、大小核特異的Nup98パラログ4種)のいずれかにGFPを融合したGFP融合タンパク質をベイトとして用い、抗GFP抗体を使って免疫沈降させ、結合タンパク質をマススペクトルにより解析した。次に、2)受精後の核が大小核へ分化する過程を生細胞イメージングで解析し、核膜孔と核分化との時空間的な関係を明らかにする。そのために、それぞれのヌクレオポリンの挙動を様々なライブセルイメージング法によって検討した。大小核の核膜孔に共通なヌクレオポリン(GFP-Seh1やGFP-Nup93)や大小核に特異的なヌクレオポリン(MacNup98A, -B, MicNup98A, -B)をテトラヒメナ細胞で発現させ、生殖を誘導し、核分化過程を生きた細胞でtime-lapse観察とFRAP解析により解析した。この結果、受精核(小核)では小核タイプの核膜孔が存在していたのが、受精後第2分裂の後に、新大核となる前部の核(大核原基)だけに大核タイプの核膜孔ができることが分かった。核膜孔が形成されるタイミングは、これまで核分化因子として知られるTwi1が大核原基に入るより30分も早いことが分かった。電顕光顕統合イメージング法(Live CLEM法)を用いて小核タイプの密集している核膜領域を調べたところ、核膜が二重化した重複核膜構造が形成され、小核核膜孔が内側の核膜に閉じ込められていた。これらの結果は、核分化に核膜孔が重要な働きをすることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大小核の核膜孔を構成する全てのヌクレオポリン(大小核ともに約30種類程度)を同定するのが目標である。既知の大小核ヌクレオポリン(共通9種、大小核特異的Nup98パラログ4種)のいずれかにGFPを融合したGFP融合ヌクレオポリンをベイトとして用い、抗GFP抗体を使って免疫沈降したタンパク質をマススペクトルにより解析した。その結果、新たに10種類以上のヌクレオポリンを同定することに成功した。既知のヌクレオポリンと合わせて、大小核で各20種類程度を同定することができた。 受精後の核が大小核へ分化する過程を蛍光イメージング法で解析し、核膜孔と核分化との時空間的な関係を明らかにするのが目的である。大小核の核膜孔に共通なヌクレオポリン(GFP-Seh1やGFP-Nup93)、あるいは大小核に特異的なヌクレオポリン(MacNup98A, -B, MicNup98A, -B)をテトラヒメナ細胞で発現させ、生殖を誘導し、核分化過程を生きた細胞でtime-lapse観察した。この結果、大核分化の時期として従来考えられていた30分早く、核膜孔複合体の大核化が起こることが分かった。順調にデータが得られたために、H27年度に予定していたFRAP解析を用いて、新たに形成された核膜孔が大核タイプであることを証明した。さらに、独自に開発した電顕光顕統合イメージング法(Live CLEM法)を用いて小核タイプの密集している核膜領域を調べたところ、核膜が二重化した重複核膜構造が形成され、内側の核膜に閉じ込められていることを明らかにした。 すべての項目で、目標を達成しており、すでに次年度に予定していた成果を挙げていることや、成果を論文(Iwamoto et al, Journal of Cell Science, 2015)に発表済みであることから予定以上の成果とした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに同定できなかったヌクレオポリンについて、プロテオミクス解析とインシリコの実験を行うことにより、大小核の全ヌクレオポリン(大小核ともに約30種類)を同定する。インシリコ解析については、その分子構造の特徴(FGリピート、NIFNリピート、WDプロペラ構造、alphaへリックス、betaシート、coiled-coilなど)から構造を予測することによって、ヌクレオポリンか否か、その可能性を検討する。可能性が高いものについては、GFP融合タンパク質をテトラヒメナで発現し、その局在から推定する。決定された全ヌクレオポリンの量比を、GFPの蛍光量に基づいて推定し、大小核NPCの構造的な違いを明らかにする予定である。 新たにヌクレオポリンと同定されたタンパク質に関して、核分化過程での挙動を生きた細胞でtime-lapse解析することによって解析する。これらの解析から核分化に重要と考えられたヌクレオポリンに関しては、RNAiによるノックダウンかゲノムDNAの遺伝子破壊を行い、そのタンパク質の核分化に対する役割を調べる。 これらの解析から、核分化に重要な核膜孔構造およびヌクレオポリンを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
この年度に予定していたプロテオミクス解析が順調に進行したために、試薬などの消耗品の使用量を想定より抑えることができた。また生殖過程におけるヌクレオポリンの挙動を蛍光イメージングで解析する研究内容についても、失敗することなく順調にデータが取れ、予想よりも培養容器や蛍光顕微鏡関連の物品費の使用を抑えることができたため。試薬や容器の購入時に格安のものを利用できたために、消耗品に使う経費を少なくすることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子改変やそれに伴うDNA配列の確認などの遺伝子解析、プロテオミクス解析などの生化学解析、蛍光生細胞観察などに必要な試薬や消耗品、成果を学会発表するための旅費、論文掲載のための論文掲載料、英文校閲費、印刷費などに使用する。
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