研究課題/領域番号 |
26291014
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
栗栖 源嗣 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (90294131)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体運動 / 構造解析 / 生物物理 |
研究実績の概要 |
ダイニンはATP加水分解による化学エネルギーを力学的運動へと変換する事で、微小管上をマイナス端方向へと移動し生命活動維持に必要な様々な細胞運動を駆動する分子モーターの1つである。ダイニンはその機能の違いから細胞質ダイニンと軸糸ダイニンの2種類に大別される。細胞質ダイニンは細胞内小胞や細胞内小器官の輸送などに働き、軸糸ダイニンは鞭毛・繊毛運動に特徴的なダイニンである。生理機能の異なる2種類のダイニンは分子構成などで異なる点も多く,特に軸糸ダイニンについては多様性が大きく不明な点も多く残されている。 細胞質ダイニンを用いた複数の構造解析から,運動活性を担うダイニン重鎖 (>500kDa) にはATP加水分解活性をもつAAA+リング、リンカー、ストークの3つの構造領域が存在し、各構造領域がモーターに必要とされる機能を分担していると考えられている。特にAAA+リングから突き出たストーク領域は長さが約15nmもあり,その先端に微小管結合部位(MTBD)が存在している。運動活性にはAAA+リングにおける加水分解活性とMTBDの微小管結合・解離が連動する必要があり,ストーク領域を介した情報伝達が必須である。電子顕微鏡解析から,2種類のダイニンのドメイン構造は類似していると報告されているが,ストーク領域を介した情報伝達や微小管との相互作用様式に共通性があるかどうかなどの詳細は未解明な部分が多い。そこで,マウスの細胞質ダイニンと緑藻クラミドモナスの軸糸ダイニン(dynein-c)のストーク領域を組換え体として調製し構造解析を行った.結晶構造解析には成功していないものの,SAXS測定とNMR測定からはストーク領域の2量体化が示唆された.これは、細胞質ダイニンモータードメインのADP結合型結晶構造中に存在するストークの二量体構造と整合しており,ストークを用いた微小管相互作用解析に向け今後の足がかりとする事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S-S結合を導入することによって,それぞれの微小管親和性を高・低2種類に固定することに成功した合計4種類のサンプルを用いて,非還元SDS-PAGE解析、CD測定による二次構造解析、SAXS (small-angle X-ray scattering)測定による溶液構造解析,さらに2H-15Nあるいは13Cにラベルした組換え体を用いたNMR測定を行った。微小管親和性が高い状態に固定した試料では,2種類のダイニン双方で二次構造含量の低下が観測され,ストーク領域の2量体化が示唆された.結晶構造解析を最終目標としているが,残念ながら現在までにターゲットとする蛋白質の結晶を得る事はできていない。しかしながら,CDスペクトルの測定や,X線小角散乱,NMR分光法を用いて試料の構造評価を行うことはできており,引き続き結晶化に挑戦する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
軸糸ダイニン・モータードメイン全体の調製については,昆虫細胞を用いた発現系構築の目処がたったため,最終年度にあたる平成28年度には大きな進捗が期待される。一方で,軸糸ダイニンの結晶が得られていない理由として,微小管に結合した状態でなければ安定な構造を採らない可能性がある。そこで,本年度はチューブリンダイマーとの共結晶化を試みることにより,研究の進捗を図りたいと考えている。また,共同研究者の実験結果から,軸糸ダイニンγの微小管結合領域と軽鎖(LC1)が複合体を形成して微小管に結合することが報告されている.並行して,LC1との複合体結晶化にも挑戦する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昆虫細胞発現系の構築に時間を要してしまい,構築の完了が年度末になってしまったため,該当の実験を次年度に行う必要が生じたため.
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次年度使用額の使用計画 |
昆虫細胞発現系をスケールアップし,最終年度に大量の組換え蛋白質を作成して実験に供する計画である.
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