研究課題
ダイニンは、微小管上を移動する生体分子モーターであり,重鎖,中間鎖,軽中間鎖,軽鎖と呼ばれる複数のポリペプチド鎖から構成される生体超分子複合体として機能する.分子モーターとしての活性を担うのが重鎖であり,その他はダイニン重鎖のオリゴマー化やモーター活性の制御の役割を持つ.そして,ダイニンはその機能から細胞質ダイニンと軸糸ダイニンに大分される.細胞質ダイニンと比較して,軸糸ダイニンはその多様性から機能未知な点が多いにも関わらず,構造・機能相関の解明が遅れている.微小管に結合する領域はストークと呼ばれ,ATPの加水分解を行うAAA+ドメインから長いコイルドコイルにより隔てられている.今年度は,我々が構造決定したADP結合型モーターの構造と,ヌクレオチドをATPに変換した二つの構造モデルを用いて,200 nsの分子動力学シミュレーションの結果を考察して論文発表した.その結果,ヌクレオチド状態の違いがストーク領域の柔軟性に影響を与えていることが判った.また,最近になってChlamydomonas由来の軸糸ダイニン軽鎖1(LC1)は,軸糸ダイニン外腕γ重鎖の微小管結合部位(MTBD)に結合することが明らかにされた.さらに,LC1の結合がダイニン重鎖の微小管結合能を変化させることが報告された.このことから,LC1はダイニンのモーター活性を間接的に制御すると考えられる.モータードメイン全体の組換え体作成と並行して,このLC1のMTBD認識機構の解明に取り組んだ.LC1の結晶構造を1.55Å分解能で決定し,ホモロジーモデルで作成した軸糸ダイニンストーク領域の構造を用いて,複合体形成様式を推測することができた.
3: やや遅れている
構造解析に向けて,継続的に軸糸ダイニンモータードメインの組換え体発現を目指してきた.昆虫細胞発現系を用いてヒトのDNAH1, DNAH2, DNAH7, DNAH10と緑藻ChlamydomonasのDHC9と各種モータードメインの発現を試みたが,全て構造解析に供することの出来るレベルには到達しなかった.HEK細胞発現系に切り替えて,引き続き組換え体の大量発現を試みている.構造解析用の試料調製に手間取っているため,やや遅れていると自己評価している.しかしながら,Chlamydomonas由来ストーク領域とLC1の複合体試料を,発現系に工夫を加えることで大量かつ高純度で精製することが出来るようになった.現在,微結晶も得られており,引き続き結晶化・構造解析を進めていることで,軸糸ダイニンの構造研究が大きく進展することが期待される.
同じ微小管系分子モーターであるキネシンは,分子サイズが小さく(運動活性に必須のモータードメインが40 kDa),微小管結合領域とヌクレオチド結合部位が分子内で近接している.その利点を活かして,微小管親和性が高いアポ型およびADP・AlF4-型キネシンのチューブリンダイマー結合状態のX線構造が報告されている.既に報告済みのキネシン単体の結晶構造との比較から,微小管結合に伴う構造変化が解明され,キネシンの運動メカニズム全容解明に大きな寄与があった.一方で,ダイニンの微小管結合領域(MTBD)と微小管の複合体構造は電子顕微鏡による低分解能構造に留まっている.微小管に結合したダイニンは遊離状態に比べて著しくATPase活性が上昇するため,微小管上のダイニンこそが実際に運動する活性型のダイニンであると言える.しかし,高分解能構造が不足している現状では微小管activated-ATPase活性について立体構造に基づいた理解は進んでいない.今後は,本研究課題で得られた成果をベースに,ダイニンのストークMTBD領域と,ダイナクチンp150 Gluedの微小管結合能を有するCAP-Glyドメインを中心に,各タンパク質とチューブリンダイマーとの複合体結晶を作成し,X線結晶解析したいと考えている.
これまで大量発現が難しかったダイニン関連蛋白質について、平成28年11月末に動物細胞による大量発現系の構築に成功した。しかし、既存のCO2インキュベーターが故障により修理不能となったため、新しくCO2インキュベーターを早急に購入することが必要となった。それに伴い、研究遂行に予想以上に時間を要したため期間延長を希望する。
47万円の繰越→30万円(消耗品)、17万円(旅費)
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
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