研究課題
PPARgと共役因子であるSRC1の相互作用における,LxxLL結合モチーフ周辺の低存在率構造の役割について5種類の変異体を用いてさらに解析を進めた.PPARgのアゴニストであるrosiglitazoneを基質としてPPARg-rosiglitazone結合状態のPPARgに対して結合するSRC1中に含まれる2つ目の結合モチーフであるLxxLL-2を含むフラグメントを引き続き対象とした.FRETによる結合能の測定では,測定値がばらつくなど計測精度に問題が残っていたため,試料調製法・測定法を変更することで計測精度を上げた.また,SRC1-LxxLL-2周辺の低存在率構造に摂動を与える変異体作製をさらに進め,最終的に5種類の変異体を作製した.5種類のSRC1フラグメントの主鎖の帰属を行い,それぞれのフラグメントの低存在率構造を解析した.野生体フラグメントとの比較から,L683G, I689GのLxxLLモチーフのN末端部における変異は,LxxLL部およびそのN末端領域に対して約10%のヘリックス構造の低下を誘導した.野生体中のこの領域には約20%の割合で低存在率ヘリックス構造が存在していた.I702G, T704G, L705Gの変異体では,LxxLLモチーフの構造存在率に対する摂動は少ない.変異点よりもC末端部の領域に大きな低存在率構造の変化が観測された.特にL705G変異体では,変異によりフラグメントのC末端部にextended構造が約10%誘導されるという特徴的な変化が観測された.野生型で観測された,LxxLLモチーフ周辺部がもつ低存在率構造に摂動を与えることで,いずれの場合も,明らかなPPARgに対する結合力の低下が観測された.特に,LxxLLモチーフから15残基C末端部にある領域に誘導されるextended構造が最も大きな活性低下に寄与することを見いだした.
2: おおむね順調に進展している
時分割FRET測定(TR-FRET)の測定条件の最適化に時間を必要としたが,その分高い定量性をもつデータの集積が可能となった.特に,低存在率構造の解析についてもNMRスペクトル測定から解析までを系統的に進められるように実施体制を見直して,FRETの結果との相関を議論できる質と量のデータが取得できるようになった.
PPARgの基質依存的な共役因子リクルート過程における共役因子側の低存在率構造の重要性は明確になってきた.今後は,partial agonist等を用いてPPARgの活性化状態と低存在率構造の関わりを明確にする.LxxLL-1モチーフ(こちらのモチーフは低存在率構造を持たない)に対しても同様の解析が現在進行中であり,PPARgがしめす基質依存的なLxxLL-1あるいはLxxLL-2への親和性変化の分子機構を,共役因子の低存在率構造の変化から明らかにする.
平成27年度計画では,変異体の作製を重点的に進める予定であったために遺伝子操作,安定同位体標識蛋白質の作製に必要な消耗品費を計上していた.実際には,FRET計測法の精度向上を優先的に進める必要があったために解析する変異体の数を絞って,予定よりも少数の変異体を用いて研究を行ったことが理由である.そのために,解析精度が向上して研究の質を上げることにつながっている.
FRET計測の精度向上は実現できたので,予定していた変異体作製などを重点的に進めるために必要な消耗品費に充当する.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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