ゲノムの大半を占める遺伝子をコードしない領域から合成される長鎖非コードRNA(lncRNA)について、遺伝子発現における役割や、普遍性の検証を行った。とくに、代謝ストレス応答性長鎖非コードRNA(mlonRNA)、およびそれに付随するアンチセンスRNA(asRNA)の機能を、分裂酵母や哺乳類細胞を用いて解析した。 平成29年度は期間延長を行い、マウス膵β細胞における遺伝子発現と上流RNA合成の可能性を検証した。特に再現性などの確認と、データ精度を向上させる実験を追加した。具体的には、以下に示す結果を確認した。 高グルコース環境下で培養したマウス膵β細胞株MIN6細胞株をを低グルコース条件に移行させた際、発現が増大した遺伝子群をRNA-seqを用いて多数同定した。これらのうち、転写物の長さがグルコース飢餓応答に際して変化する遺伝子をバイオインフォマティクス手法を用いて絞り込んだ。これらの遺伝子領域については、ノザン解析や5' RACE解析を実施し、遺伝子上流から合成される分裂酵母で見られたmlonRNAと同様の転写物を複数同定する事に成功した。これらの多くはアポトーシス誘導に関わるシグナル伝達因子や転写因子であった。実際にグルコース飢餓でMIN6がアポトーシスを誘発する事も確認できた。以上から、哺乳類細胞においても、分裂酵母で見出されたmlonRNAと同様のはたらきをする転写物が存在する可能性が高い事が示された。
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