研究課題/領域番号 |
26291021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡 昌吾 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60233300)
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研究分担者 |
竹松 弘 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80324680)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジストログリカン / ラミニン / ポストリン酸糖鎖 / 先天性筋ジストロフィー |
研究実績の概要 |
1)ラミニン結合性糖鎖の構造解析 GlcA-Xylリピートのような長い直鎖構造は質量が大きいため質量分析が技術的に困難である。これを克服するため、申請者らが見出した硫酸基転移酵素HNK-1STによってポストリン酸構造の伸長を抑制した糖鎖を用いてα-DGのセリン残基からGlcA-Xylリピートにいたる構造の解析を試みた。実際にはHNK-1STを共発現させた培養細胞から精製したΔmucin1-Fc(ポストリン酸構造を1カ所のみ持つ変異体)をトリプシンで消化し、糖ペプチドサンプルをLC/MSで解析した。その結果ポストリン酸糖鎖の基礎構造となるリン酸化三糖[GalNAcβ1-3GlcNAcβ1-4(P-6)Man]と一致するシグナルが検出された。
2)ラミニン結合性糖鎖の神経発生過程における役割 先天性筋ジストロフィーの主症状である骨格筋の壊死については病態解明が進んでいるが、一方で、重症例で併発する大脳皮質異形成(II型滑脳症)については病態発症機構の解明が遅れている。申請者らは既に本疾患原因遺伝子の一つであるAGO61の遺伝子欠損マウスを解析し、AGO61が生体内でα-DG 上のポストリン酸糖鎖の生合成に必須であることを明らかにしている(名古屋市立大学の加藤晃一博士、矢木宏和博士との共同研究)。そこで、本年度はAGO61遺伝子欠損マウスの胎生期の脳切片を作製し、基底膜ラミニンの染色によって、基底膜が破綻する時期の特定を試みた。その結果、胎生10.5日齢(E10.5)ではラミニン結合性糖鎖が無くても正常と同様に基底膜は形成されていることを確認し、基底膜破綻が胎生11.5日齢(E11.5)で初めて生じることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラミニン結合性糖鎖の構造解析については、ポストリン酸糖鎖の基礎構造となるリン酸化三糖は検出されたことから方向性は間違っていないと考えられる。しかし、硫酸化糖鎖やリン酸基から伸長した糖鎖を検出することができなかったことから、目標達成のためには更なる工夫が必要であると考えられた。ラミニン結合性糖鎖の機能解析ではAGO61遺伝子欠損マウスを用い、先天性筋ジストロフィーで併発するII型滑脳症の病態発症機構の解明につながる重要な知見を得た。さらに、ラミニン結合性糖鎖の発現制御機構に関しては、予備的ではあるが以下の知見を得た。脳内に発現するphosphacanと呼ばれるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが多数のO-Man型糖鎖を有することを明らかにした。α-DG上のラミニン結合性糖鎖はO-Man型と呼ばれる糖鎖上に存在しているが、PhosphacanのO-Man型糖鎖にはラミニン結合性糖鎖が合成されない。この制御にAGO61遺伝子が関与している可能性を示す予備的結果を得た。 以上のことから、概ね順調に研究目的が達成されているものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
Δmucin1-Fcを用いた糖鎖構造解析について、ポストリン酸糖鎖の修飾を受けたα-DGを濃縮するような前処理を施すなど実験系を改善して引き続き行い、HNK-1STが合成する硫酸化糖鎖の構造を決定するとともに、α-DGのラミニン結合モチーフであるポストリン酸糖鎖の全体構造の解明に取り組む。 先天性筋ジストロフィーにおけるII型滑脳症の分子病態解明に貢献するため、基底膜の破綻によって、引き起こされる異常について詳細に解析を行う。特に早期発生細胞であるカハールレチウス細胞とsubplate neuronなどに対する影響や神経幹細胞から分化した興奮性神経細胞の移動形態や移動方向に関して、子宮内電気穿孔法を用いたGFP遺伝子の導入によって神経細胞の動態を可視化し、過剰遊走する神経細胞の動態を詳細に解析する。 ポストリン酸糖鎖のα-DG特異的な付加制御については現在のところGlcA-Xylリピートを合成するLARGE遺伝子が担っていると考えられているが、phosphacanをツールとしてAGO61遺伝子もその制御に関与していることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の効率化により物品費や人件費などが当初予定していた金額より下回った。しかし実質的には当初予定していた計画の多くは達成することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、当初予定していた研究計画の遂行とともに、さらに追加の計画としてジストログリカン上のポストリン酸糖鎖の神経発生過程での機能を明らかにする実験に使用する。
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