研究課題/領域番号 |
26291021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡 昌吾 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60233300)
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研究分担者 |
竹松 弘 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80324680)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 先天性筋ジストロフィー / ジストログリカン / POMGnT2/AGO61 / 神経初期発生 / ラミニン結合性糖鎖 |
研究実績の概要 |
ラミニン結合性糖鎖の神経発生過程における役割について以下の知見が得られた。 申請者らは既に本疾患原因遺伝子の一つであるPOMGnT2(AGO61)の遺伝子欠損マウスを解析し、POMGnT2(AGO61)が生体内でα-DG 上のポストリン酸糖鎖の生合成に必須であること、上述したリン酸化三糖のうちのGlcNAcβ1-4Manの形成を担うN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)転移酵素であることを明らかにしている。本年度は、昨年度に引き続き、POMGnT2(AGO61)遺伝子欠損マウスを先天性筋ジストロフィーの病態モデルとして使用し、本疾患で生じるII型滑脳症の病態発症機構を解明するための実験を行った。II型滑脳症の特徴は、脳表面の基底膜の破綻と、神経細胞のクモ膜下腔への遊出に起因する大脳皮質構造異常である。しかし、基底膜が破綻する原因については不明であった。POMGnT2(AGO61)遺伝子欠損マウス胎児脳の免疫組織学的解析の結果、基底膜の破綻が生じるE11.5において基底膜の破綻部位で早期発生細胞であるカハールレチウス細胞とsubplate neuronが異所性の細胞塊を形成していることが明らかになった。先天性筋ジストロフィーにおけるII型滑脳症では、まずカハールレチウス細胞とsubplate neuronが基底膜を破ってクモ膜下腔に遊出した後、興奮性神経細胞が基底膜の破綻部位から遊出する、という発症機序が示された。さらに、子宮内電気穿孔法により興奮性神経細胞をGFPで標識し、移動中の形態を観察した。その結果、POMGnT2(AGO61)遺伝子欠損マウス脳の神経細胞では、正常な双極性の形態がみられず、移動の方向にも異常をきたしていることが明らかとなった。上記の知見は、先天性筋ジストロフィーで併発するII型滑脳症の病態解明に貢献する重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績に記述した通り、ラミニン結合性糖鎖の神経初期発生過程における役割については当初の予定より順調に結果が得られている。ポストリン酸糖鎖の発現制御機構に関しては、POMGnT2(AGO61)とB3GALNT2を細胞に過剰発現させると、本来ポストリン酸糖鎖が発現しないようなセリン、スレオニンに対してもポストリン酸糖鎖が発現するという予備的な実験結果を得ている。従って、in vivoにおいてPOMGnT2, B3GALNT2それぞれの糖転移酵素の発現量が調節されることによって、適切な場所にポストリン酸糖鎖の発現を制御しているのではないかと考えられた。さらに、DGは細胞表面で均一に存在するのではなく、特定の領域に限局して存在し、その機能を発揮するが、この細胞方面上の分布の制御機構について不明な点が多い。そこで、ポストリン酸糖鎖合成不全を示すPOMGnT2(AGO61)遺伝子ノックアウトマウス(POMGnT2-KO)由来のMEF細胞と野生型のMEF細胞でのDG自身の局在を解析したところ、野生型のMEF細胞ではDGが細胞表面上で限局した分布を示すのに対し、ポストリン酸糖鎖が欠損したPOMGnT2-KO細胞では、細胞膜上で拡散していることが明らかとなった。 以上のことから、当初の計画以上に進展しているものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたラミニン結合性糖鎖の構造に関しては、質量分析によりポストリン酸糖鎖の基礎構造となるリン酸化三糖[GalNAcβ1-3GlcNAcβ1-4(P-6)Man]と一致するシグナルが検出されたものの、更に伸長した糖鎖構造の検出には至っていない。しかしこの構造解析に関しては最近金川らによって詳細な構造が決定されたことから、今後はこの構造解析を行わず、他の研究課題に取り組む。特に、昨年度予備的な結果が得られている1)ポストリン酸糖鎖の付加制御機構に関する研究と2)DGの特徴的な細胞表面上の分布に関する研究を中心に解析を行う。ポストリン酸糖鎖の付加制御機構に関する研究ではPOMGnT2, B3GALNT2の過剰発現系を利用し、その基質認識とポストリン酸糖鎖の発現の関係を明らかにする。2)DGの特徴的な細胞表面上の分布に関する研究では、MEF細胞を用いてポストリン酸糖鎖依存的な細胞表面の特定の部位に係留される機構を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費や人件費については実験の効率化により当初予定位していた金額より下回った。旅費については研究打ち合わせなどをメールやネット回線を用いて行うことにより削減した。しかし、実質的には当初の予定通りに成果は得られており、計画は十分達成されている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用額は当初予定位した研究計画の遂行に使用するとともに、研究成果の発表を国内外の学会で積極的に行うこと、また、追加の計画としてジストログリカンの特徴的な細胞表面分布の制御機構を明らかにする実験に使用する。
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