研究課題
窒素源、および炭素/エネルギー源であるグルコースは代表的な “macronutrient” で、その両方の十分な供給が成長・増殖の最適化に必須である。本研究では、真核生物細胞で保存されたTarget of Rapamycin (TOR)キナーゼ含む2つの複合体、TOR complex 1および2 (TORC1およびTORC2) がこれら2種類の栄養シグナルを感知・統合し、増殖をコントロールする細胞内情報処理ネットワークを構成することを明らかにする。われわれは既に分裂酵母TORC2の活性化因子として低分子量Gタンパク質Ryh1/Rab6を同定した (Tatebe et al. 2010)。Rab6エフェクターであるBICD2の断片を用いて分裂酵母破砕液からGTPを結合した活性型Ryh1のみを吸着・定量するアッセイ系を確立してRyh1の活性化状態を調べたところ、細胞外グルコースに応答してRyh1がGTP結合型に変換されることが示された。最近、イスラエルの研究グループが、分裂酵母TORC2がcAMP-PKA経路を介してグルコースに応答すると報告したが (Cohen et al. 2014)、より厳密な方法によるわれわれの実験ではその結果を再現できず、Ryh1がグルコース刺激に応答してTORC2を活性化する主要因子であると考えられる。一方、Ryh1-TORC2経路は培地中の窒素源の有無には応答しなかった。また、大阪大学・蛋白質研究所との共同研究によって、分裂酵母Sin1タンパク質の CRIMドメインのNMR立体構造を決定した。Sin1はTORC2の制御サブユニットの一つで、われわれは、そのCRIMドメインがTORC2のリン酸化基質を特異的に認識し、結合することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
Gタンパク質Ryh1がTORC2へのグルコースシグナル伝達を担っていることを明確に示し、さらにグルコース飢餓下でTORC2を活性化する新奇経路の存在を明らかにして論文発表することができた。Sin1 CRIMの構造解析も予定通り完了し、投稿準備中である。また、TORC1の制御機構解析のための各種遺伝子破壊株の構築も順調に進んでいる。
Ryh1のGEFおよびGAPに焦点をおいて、グルコースによるRyh1活性の制御機構を遺伝学的・生化学的手法で探るとともに、Ryh1によるTORC2制御に重要な役割を果たすとみられるTORC2のBit61サブユニットの機能解析を進める。また、分裂酵母およびヒトSin1 CRIMドメインの基質認識部位に変異を導入し、TORC2基質のリン酸化レベルを測定することによって、CRIMドメインの in vivoでの役割を評価する。TORC2およびアミノ酸シグナルによるTORC1活性の制御機構を解析するため、TORC1活性化因子であるRhb1の活性制御機構、特にTsc1-Tsc2 複合体と2量体Gタンパク質Gtr1-Gtr2の役割を遺伝学的解析によって確立する。
平成26年度は、論文(Hatano et al., 2015; Cell Cycle)発表のために、目標1、特に酵母の実験に注力したため、消耗品費などが当初予定より低く抑えられた。
H26年度の成果を基に展開する次年度の生化学実験やヒト培養細胞を用いた実験に必要な消耗品費を中心に使用する計画である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Cell Cycle
巻: 14 ページ: 848-856
10.1080/15384101.2014.1000215
Journal of Biomolecular NMR
巻: 61 ページ: 55-64
10.1007/s10858-014-9882-7
Biomolecular NMR Assignments
巻: 9 ページ: 89-92
10.1007/s12104-014-9550-6
http://bsw3.naist.jp/shiozaki/