研究課題
本研究では、真核生物細胞で保存されたTarget of Rapamycin (TOR)キナーゼ含む2つの複合体、TOR complex 1および2 (TORC1およびTORC2) がこれら2種類の栄養シグナル(窒素源、および炭素/エネルギー源であるグルコース)を感知・統合し、増殖をコントロールする細胞内情報処理ネットワークを構成することを明らかにする。われわれは最近、分裂酵母において、TORC2が細胞外グルコースに応答して活性化し、基質であるGad8キナーゼをリン酸化・活性化することを報告した (Hatano et al., 2015)。TORC2の制御サブユニットであるSin1は、その中央部にあるConserved Region in the Middle (CRIM)が直接Gad8を認識し、結合する。われわれは、TORC2の基質認識特異性を決定しているSin1のCRIMドメインの構造をNMRによって決定し、ユビキチン様の折りたたみ構造をもっていることを示した。さらに、分裂酵母で見出されたSin1の機能がヒトでも保存されているかを検証するため、ヒト培養細胞株においてSIN1遺伝子座をCRSPR/Cas9システムを用いて破壊したところ、ヒトTORC2の基質であるAKTのリン酸化に欠損がみられ、さらにCRIMドメインに変異をもつSin1をこの株で発現させてもAKTのリン酸化は部分的にしか回復しなかった。加えて、ヒトSin1 CRIMドメイン断片がAKTに特異的に結合することを試験管内実験によって示すことができた。以上の結果は、ヒトTORC2 (mTORC2)においても、Sin1サブユニットが基質結合サブユニットとして機能し、Sin1のCRIMドメインが基質特異性を担っていることを示している。
2: おおむね順調に進展している
ヒト培養細胞を用いたSin1 CRIMドメインの変異導入解析は、当初、ゲノムSIN1遺伝子由来の野生型Sin1タンパク質の共存下で試みたものの、変異型タンパク質の機能評価が困難であり、CRSPR/Cas9システムを用いたゲノムSIN1遺伝子のノックアウトを行うことにした。その結果、変異型Sin1の機能欠損の程度をTORC2基質AKTのリン酸化のレベルで測定可能になった。分裂酵母からヒトまで保存されたSin1 CRIMの基質認識ドメインとしての機能を報告する論文を最近、投稿することができた。
グルコースで活性化されるTORC2に対し、アミノ酸などの窒素源はTORC1によって感知されている。最近の報告では、哺乳類細胞におけるGタンパク質RhebによるmTORC1の活性化はリソソーム膜で起こると提案されており、アミノ酸刺激に応答してmTORC1をリソソーム膜に局在させる機構が報告されている。同様のTORC1制御機構が分裂酵母でも保存されているかを検討し、さらにそのようなメカニズムがTORC2活性の影響を受けているかどうかを明らかにする。予備的な実験結果によると、分裂酵母ではGタンパク質二量体 Gtr1-Gtr2がTORC1の活性制御に関わっていることが明らかになっている。これと相同なRagA/B-RagC/D二量体が、哺乳類細胞においてmTORC1をリソソームに局在させるモデルが提唱されており、TORC1の活性制御機構は分裂酵母からヒトまで保存されている可能性が高い。
H27年度は、現在投稿中の論文 (Tatebe et al. 2016)の準備のために、特に酵母の実験に注力したため、消耗品などが当初予定より低く抑えられた。
H27年度の成果を基に展開する次年度の生化学実験やヒト培養細胞を用いた実験に必要な消耗品を中心に使用する計画である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
Cell Cycle
巻: 14 ページ: 848-856
10.1080/15384101.2014.1000215
Biomol. NMR Assign.
巻: 9 ページ: 89-92
10.1007/s12104-014-9550-6
http://bsw3.naist.jp/courses/courses304.html
http://bsw3.naist.jp/shiozaki/