研究実績の概要 |
本研究では、真核生物細胞で保存されたTarget of Rapamycin (TOR)キナーゼ含む2つの複合体、TOR complex 1および2 (TORC1およびTORC2) が栄養シグナルを感知・統合し、増殖をコントロールする細胞内情報処理ネットワークを構成することを明らかにする。 われわれは分裂酵母において、グルコース刺激がTORC2を活性化し、その基質であるGad8キナーゼをリン酸化・活性化することを既に報告した (Hatano et al., 2015)。このTORC2からGad8のシグナル伝達に、TORC2複合体の制御サブユニットであるSin1が必須の機能を持つことを明らかにした (Tatebe et al., 2017)。加えて、Sin1の機能はヒトのTORC2複合体においても保存されていることを示し、このSin1の機能を阻害することでTORC2によるガン遺伝子産物AKTの活性化を抑制できる可能性を見出した(Tatebe et al., 2017)。 また、TORC1複合体についても分裂酵母をモデル系とした解析を進め、哺乳類でTORC1活性の制御に関わっているRag GTPaseヘテロ二量体、Ragulator複合体、GATOR複合体が分裂酵母で保存されていることを明らかにした。さらに、分裂酵母のRag GTPaseであるGtr1-Gtr2 ヘテロ二量体が、TORC1の活性抑制に必須であることを発見した。このメカニズムは、GDP結合型のGtr1に依存しており、Gtr1のGTPase-Activating Protein (GAP)として働くGATOR1複合体を欠損した分裂酵母株では、TORC1活性の異常亢進が引き起こされる。この結果は、これまでTORC1の活性化因子として考えられてきたRag GTPaseが、TORC1抑制因子としても機能することを示す、非常に予想外の結果であり、論文として発表した (Chia et al., 2017)。
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