研究課題/領域番号 |
26291028
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩根 敦子 大阪大学, 生命機能研究科, 招へい教授 (30252638)
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研究分担者 |
渡邉 朋信 大阪大学, 免疫学フロンティアセンター, 招へい准教授 (00375205)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | FIB-SEM / 超微細構造 / 細胞分裂 / シゾン / 三次元再構築 / ダイナミクス |
研究実績の概要 |
電子顕微鏡観察は標的分子並びに細胞小器官だけでは無く、それを取り囲む環境を含めた超微細構造として可視化出来る利点がある。クライオ電子顕微鏡観察は化学固定すること無く、無染色で真の構造が観察出来る期待が持たれるが、TEM 観察故、その分解能は試料の厚さに制限がある。そこで、空間分解能が理論的には試料の厚さに影響を与えないFIB-SEM を用いて最小限度の細胞小器官を有するシゾンを生命の基本である細胞分裂過程のモデル生物として選び、電子顕微鏡観察で苦手であった標的分子の同定を網羅的複数同時にマッピングしながら細胞丸ごとレベルで超微細構造解析を行う。 平成27年度は 電子顕微鏡観察では多少苦手とされる、シゾンの細胞分裂に伴う、オルガネラに存在する標的分子の同定やダイナミックスを有効に確認するために当初、蛍光顕微鏡のGFPに相当すると期待される新たな組換え体改良タグ(miniSOG 誘導体やAPEX誘導体)を用いた系の開発を行ってきたが、内在性ペルオキシダーゼ活性が余りにも高く、一般的な動物細胞では可能である事が確認されたものの残念ながらシゾンでは難しい。そこで、コピー数を調節し得る新たなstable組換え体発現系開発へと舵をきった。各オルガネラを特異的にイメージングするためにUMP合成酵素遺伝子をマーカーとする発現系が確立出来たことは有意義な結果である。今まで生きた状態で同一細胞の細胞分裂過程のダイナミックスを追うことは困難であり、報告は無い。この度、私達は特殊な基板上での1細胞毎のシゾン細胞のタイムラプス観察にも成功した。電子顕微鏡のための試料作製も概ね確立したこともあり、FIB-SEMと3次元再構築法から新たに3D構造モデルも80個以上となった。光学顕微鏡からの結果と比較しながら細胞分裂の時系列にあわせたより正確な超微細構造モデルを得ることも可能となってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電顕試料として母集団を保てる同調培養系の確立は予想以上に順調で、細胞分裂周期各ステージに相当する母集団を確実に得られる。電子顕微鏡観察に先立ち、生シゾン細胞のオルガネラや標的分子のダイナミックスが見れたと言う報告は無いが、適切な基盤の上での培養、観察出来る系も立ち上がり、電子顕微鏡観察で苦手とされた、同定、ダイナミックスを補填出来る重要な成果である。オルガネラの位置を確認するために市販のオルガネラ特異的識別蛍光試薬をいくつも試したが、使えるものがほとんど無かった。しかし、相同性組み換えによるゲノムターゲット発現系も立ち上がり、組換え体蛍光蛋白質タグを用いることでそれを解決し、オルガネラレベルに留まらず、標的分子の局在化までの情報を得ることが可能となった。汎用性のある動物細胞での発現系と比べ、標的分子のイメージングまでに1月程度と少し時間がかるが、培養液のPHに起因すると思われる薬剤耐性剤による選択が使えないこと等を考え合わせると研究遂行にあまり支障は無いと程度と考える。顕微鏡観察は申請時からのFIB-SEMに加え、超高圧TEMトモグラフィー技術を用いると局所的ではあるがより詳細な構造情報が補填出来る事が解り、これも嬉しい成果である。一方、FIB-SEMと同様な連続二次元像が得られると期待されるSBF-SEMでは観察範囲は広げられるもののダイアモンドナイフによる切削間隔を30nm以下にすることは困難で有り、シゾンの様な小さな生物やオルガネラ内のベシクルなどの構造情報が飛ぶ危険性があり、得たい情報の視野範囲等も加味して、先端顕微鏡を選択すべきであろう。光学顕微鏡や電子顕微鏡観察に相応し、条件が立ち上がりつつある今、3Dモデル作製にはセグメンテーションのステップが律速段階となることも解り、現在、人力で行っている解析法を見直し、自動化へと進めていけることが今後の課題の一つと考える。
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今後の研究の推進方策 |
超微細構造は観察出来るものの、細胞の重要な役割とリンクした細胞内の超微細構造において電子顕微鏡観察の苦手な点としては①リアルタイムでの動的な構造変化や②標的分子の同定、この2点が挙げられる。動的な変化に関しては昨年までは困難だと一度はあきらめかけていたが、適切な基板上で同一細胞内の変化を追う系が確立出来た。2番目の項目については電子顕微鏡のマーカーとなりうる新たなタグを開発することを予定していたが、内在性のペルオキシダーゼ活性が当初の想像以上に高く、動物細胞では可能であることが確認されたものの、真核生物の最小限度の細胞小器官を有するシゾンで用いるのは現時点では困難だと考える。そこで、光学顕微鏡の蛍光蛋白質タグを標的分子に結合させた相同性組み換えによるゲノムターゲット発現系の開発にシフトさせる。1細胞毎のダイナミクスも追えるようになったため、光学顕微鏡観察と電子顕微鏡観察から得られた情報を併せて評価出来るように進める予定だ。現在、異なる波長での2つ同時にイメージングすること系は立ち上がりつつ有り、今後、複数の標的分子を同時に、そして網羅的マッピングするための系へと進める予定である。また、標的分子の存在場所のみならず、取り囲む環境の動きを踏まえながら生物丸ごとレベルで可視化し、生物の生存に必須である “均一に確実に娘細胞に分裂する細胞小器官の振る舞い”を解明するのが本課題の目的であり、目標である。同調培養、試料作製並びに電子顕微鏡観察は順調に開発が進んでおり、様々な分裂ステージにおけるシゾンの3D構造モデルも80個以上まで得ることが出来た。今後、より多くの構造モデルを得るための自動画像解析開発へも進めて行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
情報収集ならびに成果発表のための旅費の予算が計画より安価ですんだため。
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次年度使用額の使用計画 |
学術研究助成基金助成金975,442円は次年度繰越金として物品費並びに旅費に加えたい。
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