研究課題/領域番号 |
26291031
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森垣 憲一 神戸大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10358179)
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研究分担者 |
林 文夫 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (80093524)
鈴木 健一 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (50423059)
笠井 倫志 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (20447949)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体膜 / 人工膜 / 脂質ラフト / 膜タンパク質 / 受容体 / ロドプシン |
研究実績の概要 |
細胞膜の微小ドメイン構造(ラフト)は、膜タンパク質の機能調節に重要な役割を果たすと考えられている。しかし、膜タンパク質とラフトとの相互作用が膜タンパク質機能に与える影響を生きた細胞で定量的に評価することは極めて難しい。本研究は、ラフト領域と非ラフト領域がパターンとして明確に分かれている人工膜を用いて、両領域への膜タンパク質分配や、両領域における膜タンパク質の機能を測定することを目的としている。平成27年度には、①パターン化人工膜作製、②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成、③膜タンパク質のラフト親和性測定、に関する技術開発を行った。 ①パターン化人工膜の作製:ガラス基板に流動性脂質膜(100%生体脂質)と部分重合膜(生体脂質とポリマー脂質の混合膜)を持つパターン化膜を作製し、ラフト領域(lo相)および非ラフト領域(ld相)とを定量的に分配したラフトモデル人工膜を作製した。 ②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成:パターン化人工膜に、ロドプシン光受容体(Rh)、光情報伝達関連タンパク質(トランスデューシン(Gt)、S-モデュリン(S-mod))の再構成を行った。Rhにあらかじめ蛍光標識抗体を結合させて再構成することで配向性を制御することができた。また、RhおよびGtが機能を保持していることを確認した。 ③膜タンパク質のラフト親和性測定:Rh、Gt、S-modのパターン化人工膜におけるlo相・ld相への分配を測定し、ラフト親和性を定量的に評価する技術を確立した。Rh、Gtはld相への分配が高く、ラフトから排除される傾向があることが示された。 以上の結果は、Biophysical Journal誌に掲載され(Tanimoto, Biophys. J. 109, 2307 (2015))、国内外での学会でも発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ラフト領域と非ラフト領域がパターンとして明確に分かれている人工膜を用いて、両領域への膜タンパク質分配や、両領域における膜タンパク質の機能を測定することを目的としている。平成27年度には、パターン化人工膜に膜タンパク質を再構成しそのラフト親和性を測定する技術を確立することができた。特に、ロドプシン光受容体(Rh)を機能を維持した状態で再構成する技術を開発したことは重要な成果である。Rhは医薬品の主要標的であるGタンパク質共役型受容体の代表例である。7回膜貫通型の構造を持つため、これまで人工膜への再構成が困難とされてきた。本研究では、界面活性剤での可溶化条件、再構成の際の導入条件などを最適化することで、世界で初めてRhを基板支持人工膜に再構成し、Rh分子が動的に拡散していることおよび機能を維持していることを確認できた。そして、Rhのlo相・ld相への分配を測定し、ラフト親和性を定量的に評価するに成功した。この結果は、Biophysical Journal誌に掲載され(Tanimoto, Biophys. J. 109, 2307 (2015))、国外学会においても招待講演として発表し高い評価を得ている。また、光情報伝達関連タンパク質(トランスデューシン(Gt)、S-モデュリン(S-mod))の再構成を行った。これらの分子は脂質鎖によって脂質膜に結合する膜タンパク質である。Gt、S-modのlo相・ld相への分配を測定し、ラフト親和性を定量的に評価した。これらの分子はRhが受容した光シグナルの伝達に関与しており、その機能をラフト親和性がどのように調節するかは、今後解明すべき重要な課題である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、本研究の最終年度であり以下の検討を行うことで脂質ラフトが膜タンパク質機能に対してどのような調節を行っているのか、解明する糸口を得たい。 ①Rhおよび光シグナル伝達関連分子:光を受容したRh*とGtの複合体が高いラフト親和性を持つことは生化学的に示されている(J.Biol.Chem. 276: 20813, (2001))。パターン化人工膜において、Rhを光活性化させてGtを結合させ、Rh*-Gt複合体がld相からlo相に移動するか検証する。 Rhの光活性化によりlo相への分配係数が大きくなれば、Gtとの結合およびRh二量体化がラフトへの親和性を高めるという仮説を証明できる。また、光シグナル伝達に関与する分子群(PDE6、GRKなど)のラフト親和性を定量することで、これらの分子の膜内局在(ラフト親和性)が光シグナル伝達に与える影響を定量的に評価することを試みる。 ②GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)のラフト親和性解析:ラフトに局在することが知られているGPI-APを用いてラフト親和性評価を行う。モデル系として、GFPの付いたGFP-GPIをCHO細胞で発現、精製する。GFP-GPIを基板表面の脂質膜に加えて膜表面に結合させ、ラフト親和性、ダイマー形成を定量的に検証する。 ③Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のラフト親和性解析:GPCRの代表例として、β2ARをパターン化人工膜に再構成し1分子計測でラフト親和性を評価する。そのため、HaloタグおよびHisタグを付加したβ2ARを昆虫細胞(Sf9)に発現させる。精製、可溶化したタンパク質をパターン化人工膜に導入し、膜内局在と機能との相関を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の一部(GPI-APの精製、再構成)が次年度にわたって継続されるため、一部の物品費用を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
GPI-APの精製、再構成に必要な物品(カラム、抗体など)の購入費に充当する。
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