研究課題
ダイニンは,ATP加水分解を利用して微小管上を滑り運動する巨大なモータータンパク質複合体で,そのモーター活性は細胞内物質輸送,細胞移動,細胞分裂,鞭毛・繊毛運動など広範な細胞運動の駆動に必須である.しかし,これら多様な細胞内機能を発揮するために重要な「ダイニンの運動活性を制御するメカニズム」はいまだに謎に包まれており,その解明は生物物理学・細胞生物学分野の重要な研究課題のひとつである.本研究課題は,ダイニンの機能面での解析を進めるとともに,構造面での研究を強力に推進することで,その運動活性制御メカニズムの全貌を原子レベルで明らかにすることを最終目標としている.本年度の研究では,ダイニン制御に重要な役割を果たすと考えられている「ダイニン中核領域(ダイニンMD)内の複数のATP加水分解部位」について機能解析及び構造解析を進めた.ダイニンMDはATP加水分解部位を3個内包するが,そのうち2個(AAA3とAAA4)はモーター活性制御部位だと推測される.そこで本研究では,まず点変異導入により各部位のATP加水分解をブロックし,その影響を前定常状態速度論解析により評価した.その結果,AAA3もしくはAAA4は,ダイニンの化学力学変換サイクルを変調させることでモーター活性のオン・オフを制御する特殊なATP加水分解部位であることが明らかになった.次に,その構造基盤を解明するために,これらの変異体について結晶構造解析を試みた.発現精製系の最適化と結晶化条件の網羅的な検討を行うことで,異なるヌクレオチド結合状態にトラップしたダイニン変異体について,各々の結晶化条件を複数確立することに成功した.得られた結晶の回折分解能は現時点では10Å程度であり,構造解析が可能な4Å以上に結晶の質を改善していくことが今後の課題である.
2: おおむね順調に進展している
ダイニン運動制御機構の構造基盤解明に向けて,その最初の課題である「ダイニンMD内の複数のATP加水分解部位」の構造・機能解析について,ほぼ予定通り研究を進展させることができたため上記評価とした.
ダイニン運動活性のオン・オフ制御は様々な階層で起こるが,特に重要だと考えられるのは次の3点である:①ダイニンMD内の複数のATP加水分解部位による制御;②ダイニンを構成する2個のMD間の相互作用による制御;③モーター活性制御タンパク質のダイニンへの結合による制御.今年度は最初の課題についての研究を進めたが,今後は残りのより上位の制御機構についても構造基盤解明を目指す.
研究代表者の所属研究組織の変更が次年度はじめ(2015年4月1日)に決まり,今年度後半の研究遂行及び研究費使用に若干の変更が生じたため.
新しい研究室において,本研究課題を遂行するために必要な機材および消耗品の購入を予定している.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
J. Cell Biol.
巻: 208 ページ: 211-222
10.1083/jcb.201407039.
J. Mol. Biol.
巻: 426 ページ: 3232-3245
10.1016/j.jmb.2014.06.023.
実験医学増刊「構造生命科学で何がわかるのか,何ができるのか」(田中啓二,若槻壮市/編)
巻: 32 ページ: 221-224