研究課題
非天然型アミノ酸をタンパク質に導入する効率の高い大腸菌株の作製を行った。これまでに翻訳終結因子の1つであるRF-1を除去した大腸菌株(RFzero株)を作製して報告していた。RFzero株では、ゲノム中に300個程度存在するUAGコドンのうち、必須遺伝子の翻訳終結に使われている7個のUAGコドンを他の終止コドンに改変することでRF-1の除去を可能にしていた。RFzero株の増殖活性の向上を図り、様々な非天然型アミノ酸の導入を促進するために、さらに多くのUAGコドンを改変した大腸菌株B-95.delAの作製を行った。最終的に300個のUAGコドンのうち、95個のUAGコドンを他の終止コドンに改変することで、低温における増殖速度を高め、合成培地での増殖を可能にして、翻訳後修飾アミノ酸を組み込んだタンパク質の生産系として優れた大腸菌株を作り出すことができた。実際に、トロンビンに硫酸チロシンを組み込んだ組換えタンパク質が、従来法にくらべて高い純度と生産量を持って生合成できることを示して、B-95.delA株の実用性を示した。アミノアシルtRNA 合成酵素の基質特異性の改変も行なった。ピロリシルtRNA合成酵素(PylRS)に数か所の変異を導入して、ホモアルギニンを認識する変異体を作製することに成功した。この実験では、AGGコドンをホモアルギニンに割り当てることで、UAGコドンにはこれとは異なる非天然型アミノ酸を割り当てることを可能にしている。今年度の成果としてはAGGコドンにはホモアルギニン以外の非天然型アミノ酸を割り当てることには成功していないが、来年度以降の課題として取り組む予定である。また、この課題の直接の目的ではないが、非天然型アミノ酸導入技術を生かした共同研究を通じて翻訳後修飾されたヌクレオソームや、真核生物の翻訳開始因子の立体構造の解析にも貢献することができた。
2: おおむね順調に進展している
非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質を生産するための大腸菌ホスト株の作製については、計画通りよりも早く、期待した以上の成果が得られた。アルギニンの誘導体に対する特異的なアミノアシルtRNA合成酵素の改変については、アルギニルtRNA 合成酵素(ArgRS)ではなく、PylRSを改変する計画に変更し、実際に1つのアルギニン誘導体に対して特異的な変異体の作製に成功した。
修飾アミノ酸を認識してtRNA に結合させる酵素変異体の開発については、当初計画にあるように、開発の可能性の高いものに研究努力を集中させるもくろみである。具体的には、ArgRSではなく、PylRSから出発してアルギニン誘導体に特異的な変異体の開発を進める予定である。このことで、ArgRSの改変を進めるよりも、研究期間内の成果の最大化が見込めると考えている。PylRSについては立体構造も報告されており、又、ホモアルギニンを認識する変異体の構造解析を共同研究によって進めており、これらの構造情報を活用することで基質特異性の改変に弾みがつくだろう。生産ホスト大腸菌の開発は順調にすすんでおり、今後、1つのタンパク質に2種類の修飾アミノ酸を導入する技術開発を進める。2つのめ非天然型アミノ酸を導入する為に重複したセンス・コドンを利用する計画である。アミノ酸2つめの非天然型アミノ酸を導入する為には、AGGコドンを翻訳するtRNA分子種の発現を特定条件下で抑制できるようなRF-1欠損株(B-95.delA株の誘導体)を作成する。AGGコドンはアルギニンの6つのコドンの1つある。対応するtRNA分子種の発現を強く抑制すると同時に、AGGコドンを非天然型アミノ酸に翻訳するtRNAを一過的に発現させて、2種類目の非天然アミノ酸の導入を実現する。このRFzero誘導株は特定条件下では長く増殖を維持することはできないが、完全に増殖停止するまでの間に目的の修飾タンパク質を大量に生産できるだろう。
該当年度中に、複数のアルギニン誘導体(非天然型アミノ酸)の購入を予定していたが、最初に試行したホモアルギニンを用いて当初計画を達成することができたので、複数の誘導体の購入が不要になった。
当初計画通りに2種類の非天然型アミノ酸を同時にタンパク質に導入する研究を進める。研究内容は年度をまたいで継続しており、計画の変更をすることなく、残額を使用する計画である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 5件)
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