研究課題
1つのタンパク質に2種類の非天然型アミノ酸を導入することで、酵素(トランスグルタミナーゼ、TG)の自動活性化機構と耐熱化を同時に実現することに成功した。既に、RFzero株等の開発によって、1種類の非天然型アミノ酸であれば、UAGコドンを用いてタンパク質中の何か所でも導入することが可能になっていた。もう1種類の終止コドン(UAAまたはUGA)を利用することで、2種類目の非天然型アミノ酸を導入する試みは既に複数報告されているが、UGAコドンを利用する場合には非天然型アミノ酸の導入効率が低くタンパク質の大量生産が望めない。UAAコドンを利用する場合にはUAGコドンとの読みわけが困難であり、2種類のアミノ酸が互いのコドンに混入する問題が避けられない。そこで、2つのめ非天然型アミノ酸を導入する為に重複したセンス・コドンを利用した。アミノ酸2つめの非天然型アミノ酸を導入する為には、AGGコドンを翻訳するtRNA分子種の発現を特定条件下で抑制できるようなRF-1欠損株(B-95.delA株の誘導体)を作製していた。AGGコドンはアルギニンの6つのコドンの1つある。対応するtRNA分子種の発現を強く抑制すると同時に、AGGコドンを非天然型アミノ酸に翻訳するtRNAを一過的に発現させて、2種類目の非天然アミノ酸の導入を実現する。このRFzero誘導株は特定条件下では長く増殖を維持することはできないが、完全に増殖停止するまでの間に目的の修飾タンパク質を大量に生産することができる。このことを活用して、TGにヒドロキシ酸とハロゲン化チロシンを同時に導入した。ヒドロキシ酸はTGの活性化を抑制しているN末端領域の最後に部位特異的に導入することで、アルカリ条件下でこの領域を切り離すことで酵素を活性化することに成功し、ハロゲン化チロシンは酵素本体内の適当な部位を探索することで耐熱性を高めることができた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に開発したアルギニン誘導体特異的なPylRS変異体を活用して作成した、2種類の非天然型アミノ酸を導入する大腸菌ホスト株を効果的に活用して、新しいタンパク質工学のアプローチを示すことができた。この点は予想外の成果であった。
平成29年度は本課題の最終年度であり、本課題の下で開始した研究を全て終了させて成果のとりまとめを行う。特に、農研機構と共同研究で、アジド基で修飾されたタンパク質をカイコで作製するための研究開発については、アミノアシルtRNA 合成酵素の改変を完了する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 36946
10.1038/srep36946
化学と生物(日本農芸化学会)
巻: 54(5) ページ: 343-350