研究課題/領域番号 |
26291048
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
甲斐 歳恵 大阪大学, 生命機能研究科, 招へい教授 (40579786)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / 非コードRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、雌雄の生殖幹細胞、分化の最終段階である卵細胞、雄性生殖細胞の分化の重要なステップである第一減数分裂を始めた第一精母細胞、のそれぞれの純粋な細胞集団を単離し、特異的に発現している長鎖非コードRNAを次世代シーケンシングとバイオインフォマティックスによって網羅的に分析する。また、未知の長鎖非コードRNAの発見を目指し、ポリA末端を持たないRNAを解析対象とする。バイオインフォマティックス解析にて、それぞれのステージにおいて特異的に発現している新規長鎖非コードRNAを同定し、生殖細胞の分化過程における非コードRNAの発現ネットワークを網羅的に解明する。 ショウジョウバエの生殖幹細胞は、生殖巣の先端部に位置し、隣接するニッチと呼ばれる体細胞から供給される細胞外因子によって維持されている。これらのリガンドを生殖巣内で過剰供給することによって、幹細胞は腫瘍化し増殖する。かつ、生殖細胞特異的にGFP蛋白質を発現させたハエを作成する。また、第一次精母細胞の単離には、精子への分化に必要な転写因子の欠損体精巣を用いる。これらの遺伝学的トリックを用いて、細胞種が腫瘍化した200-400個体から生殖巣を解剖し、コラゲナーゼとトリプシン処理によって細胞懸濁液に調製した。その後、細胞選別器によってGFP陽性の生殖細胞を選別し、雌雄それぞれの生殖幹細胞および第一次精母細胞のみの細胞集団を単離した。卵細胞は、野生型の卵巣から手作業で最終分化の14期のものを分別した。 現在、得られた配列をバイオインフォマティクスで解析中である。アダプター除去の後、ノイズを取り除き、ゲノム上にマップした。コーディング配列を除去し、非コードRNAを同定するためのパイプラインを作成中である。今後、それらの非コードRNAの中から、生殖過程で興味深い発現パターンを示すものを同定し、機能解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ほぼ計画通りに細胞の分取とRNA解析を行うことができた。細胞腫別に7サンプルをそれぞれ、重複して解析した(7サンプルx2重複=14サンプル)。リード配列のゲノムへの正確なマッピングを期すために、100塩基長ペアエンドで、Hiseg2500イルミナを用いてシーケンシングを行い、10億程度のリードが得られた。全データの中から、精度の良いデータを選び、ショウジョウバエのゲノムに対してマッピングした。現在、トランスクリプトーム解析を行っている最中であるが、予備解析の結果、雌性生殖幹細胞では、他の細胞種に比べて、多くの非コード長鎖RNAの発現が見られた。このことから、非コード長鎖RNAが幹細胞の維持または分化に重要な役割を果たしていることが示唆される。 平成26年度中に研究室をシンガポールから大阪大学へ移す予定であったが、大阪大学および現在所属のシンガポールの研究所、双方での諸事情により本格的な移動には至っていない。平成26年度の後半より協力研究員の1人が、大阪大学での研究室の立ち上げを行っている。一般的な実験設備・環境に加えて、すでにショウジョウバエの飼育や培養細胞を扱う環境も整えているので、平成27年度からは、大阪大学での研究が本格的に始められる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27ー28年度は、以下の観点から解析対象とする非コードRNA候補を絞りこみ、その機能解析を開始する。発現レベル:それぞれの分化段階に特異的に発現しているもの ・保存性・配列相同性:他の生物種と比較して非コードRNAそのものの相同性、近傍のゲノム構造の相同性など ・既知のシスおよびトランス制御因子の有無 ・既知の作動因子と結合するドメインの有無 などを指標とする。絞り込まれた候補非コードRNAを対象に、in situハイブリダイゼーションやqRT-PCRによって、生殖細胞の分化過程における発現レベルや発現パターンを検証し、以降の機能解析対象となる候補を絞り込む。 候補遺伝子内にトランスポゾン挿入変異体があれば、その表現型の解析を行う。しかし新規に発見された遺伝子の近傍には挿入変異がないケースが多く、その場合は以下の方法によって機能をノックアウトもしくは欠損させ、生殖細胞への影響を解析する。 ① 候補非コードRNAをターゲットにしたヘアピン構造を発現する遺伝子組み換えショウジョウバエを作成し、生殖細胞で特異的に機能をノックアウトする。 ② CRISPR-Cas9による機能欠損株の作成:候補非コードRNAの遺伝子座の前後に相補的な配列を持つ二つのRNA鎖と、そのキメラRNAに結合するDNA切断酵素のCas9をハエ胚に導入し、全遺伝子座の欠損を起こす。候補非コード欠損体はPCRに基づいたスクリーニングによって同定する。 本プロジェクトで得られたトランスクリプトームは、非コードRNAのみならず、生殖細胞の発生過程におけるコードRNAの発現ダイナミックスを理解するうえでも非常に重要なデータである。今後、これらの発現ダイナミクスが、生殖細胞の発生に伴ってどのように制御されているかの分子メカニズム、およびこの機構によって制御される生殖細胞の成熟過程の詳細を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、研究室の移転に伴って設備備品費を多く計上していた。その後、既存の設備や機器を活用できることになり、設備備品の購入を一部取りやめた。また超高純度の純水作製装置の購入を予定していたが、実際の実験環境においては、過剰な設備と判断し、安価なグレードなもので代替した。
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次年度使用額の使用計画 |
計画当初には使用できると思っていた設備(インジェクター、発光検出器、高速大容量遠心機など)が、使用できない、あるいは使用困難であることが判明しているので、それらの購入経費とする予定である。また、試薬類の消耗品費が予想を上回っており、設備費の一部を消耗品費とさせていただく予定である。
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