研究課題/領域番号 |
26291054
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20281834)
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研究分担者 |
坂田 洋一 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50277240)
梅澤 泰史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70342756)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物 / プロテインキナーゼ / ストレス / アブシジン酸 |
研究実績の概要 |
SNF1様プロテインキナーゼSnRK2は植物の乾燥、高浸透圧応答に中心的な役割を果たすシグナル因子として知られている。SnRK2のうちサブクラスIIIに属する分子種はストレスホルモンアブシジン酸の応答を活性化する因子として知られている。SnRK2は基部陸上植物であるコケ植物にも存在することが明らかとなっているが、その調節機能は明らかではない。本研究では、蘚類ヒメツリガネゴケを用い、細胞の低温、乾燥、高浸透圧応答やアブシシン酸応答におけるSnRK2の調節機構について明らかすることを目的とした。 ヒメツリガネゴケの原糸体細胞を紫外線照射することにより単離されたアブシジン酸非感受性株AR7は、Late Embryogenesis Abundant (LEA ) タンパク質などのストレス応答性遺伝子の発現レベルが低下していた。抗体を用いた解析により、タンパク質レベルでもそのことが確認された。野生株とAR7株の比較ゲノム解析から、AR7株はプロテインキナーゼARKに1アミノ酸置換を持つことでストレス応答が低下することが明らかとなった。遺伝子ノックイン実験により、この変異がAR7のアブシジン酸、浸透圧および低温応答の非感受性をもたらすことが確認された。また、新たに得られたアブシジン酸非感受性株についても解析を行い新たなARKアリルを同定した。 In gel キナーゼアッセイから、ARK(AR7)ノックイン株でSnRK2の活性が著しく低下しており、ARKがSnRK2の調節因子であることが示唆された。SnRK2のリン酸化解析から、保存されたセリン残基をリン酸化部位の候補として同定した。ARKについてもリン酸化されていることが明らかとなり、アブシジン酸や浸透圧ストレスによる制御の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WTとAR7の遺伝子発現解析---WTとAR7変異株の比較トランスクリプトム解析はほぼ終了し、ノーザン解析でも予想通り、LEA遺伝子の著しい減少が見られた。AR7株だけでなく、ARKのノックインラインについても同様の結果を得ることができ、ARKのストレス応答における役割が揺るぎないものとなった。 新たな変異株の確立と解析---これまでに得られた約100の変異株のうち、42についてARK座の解析を終了し、そのいくつかがARK遺伝子に変異を持つことが明らかとなった。変異箇所については、AR7と同様の調節ドメインに見られた他、触媒を司るキナーゼドメインにも変異を持つ株が得られた。ナンセンス変異を持つ株も得られ、これらの株における細胞の成長が他と比べ遅いことが明らかとなった。このことはARKの新たな機能を示唆する重要な証拠である。 ARKとSnRK2の局在解析---これらのGFP融合遺伝子を用いた局在解析からは細胞質における共局在が示唆されたが、物理的な相互作用については不明である。しかし精製したARKは試験管内でSnRK2をリン酸化することが明らかとなり、ARKが直接の上流制御因子である可能性が示唆された。リン酸化部位の解析結果ではARK自身もリン酸化されていることが明らかになったことは、大きな進展である。 ARKオルソログの解析について---系統樹の解析からARKオルソログがコケ以外の植物にも存在することが示唆されていたが、AR7株を用いた実際の相補実験でもそのことが強く示唆された。すなわち、系統樹で同じグループに属するシロイヌナズナやイヌカタヒバの相同遺伝子がAR7のアブシジン酸応答的遺伝子発現を回復した。予想外であったのは相同性があっても相補しない遺伝子がいくつも同定されたことである。これら遺伝子は今後、重要な調節ドメインの探索に有用な情報を与えるであろうと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
ARKの機能ドメイン解析---ARKに様々な変異を導入し、遺伝子活性化能、細胞内局在、成長阻害およびストレス耐性について検討する。遺伝子活性化と細胞内局在の解析についてはヒメツリガネゴケの一過的発現系を用いる。これまでの解析では、ARKの活性化に関わる正および負の制御ドメインの存在が明らかとなっているが、これらドメインを改変したコンストラクトについて、GFPまたは抗体を用いた局在観察、ストレス耐性試験を行う。ARKについては抗リン酸化ペプチド抗体を用いてリン酸化のストレス応答的な変動をモニターするとともに、リン酸化部位を破壊した形質転換体におけるストレス応答の変化を詳細に解析する。 ARK相互作用因子の探索---ARKとの相互作用については、免疫沈降やプルダウンアッセイにより解析する。免沈したタンパク質については、抗体による検出、キナーゼアッセイを行うとともに、LC-MS/MSにより相互作用タンパク質を同定する。同定された候補遺伝子については相互作用は酵母Two-Hybrid系やBiFC法によって確認を行う。また、リコンビナントタンパク質を用い、in vitroでの活性を詳細に調べる。 シロイヌナズナオルソログの解析---シロイヌナズナではARKは少なくとも6つの遺伝子にコードされているが、キナーゼドメイン以外の配列には多様性が見られる。これらドメインの役割をヒメツリガネゴケの一過的発現系を用いて解析する。これら遺伝子のノックアウト株や過剰発現する形質転換体について、乾燥・低温誘導的な遺伝子発現の解析やストレス耐性試験、気孔開閉と蒸散測定、種子発芽試験など、アブシジン酸応答やストレス応答について多面的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の旅費と近郊旅費が不確定であったため、概算で少し低めに予算を使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
物品の購入に充てる。
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